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 かかりつけ医通信 第77号(最終号)   2005年3月31日発行
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    健康・医療のお役立ち情報・・・医療の現場から
 私達は、医療の現場で働く臨床医です。実際の診療やネット上から
 得た健康と医療の役に立つ情報を、市民の皆さんにお届けします。

 すでにご存じのように4月1日から個人情報保護法が施行されます。
読者の皆さんも、御自分の職場でこの法施行への対応に追われておら
れることと思います。今回は医療の現場における個人情報保護法につ
いて簡単に纏めてみました。より詳しくは下記の参考資料を御熟読戴
ければ幸いです。
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 ● お知らせ

 「かかりつけ医通信」は2001年8月20日に創刊し、3年半にわたり
これまでに77号の発刊を行うことが出来ました。しかし、最近はスタ
ッフがいろんな役職に就き、公私とも忙しくなってきて、定期的・継
続的な発行が困難になってきました。もともと発刊は不定期なメルマガ
で始めたのですが、現在の編集委員には少し重荷になってきたことも
事実です。そこで、皆と話合い、この号を持ちまして、現在の編集委員
会は一端終了とさせていただくことになりました。
 読者の皆様には、「かかりつけ医通信」を長年にわたり、ご愛読いた
だき大変ありがとうございました。感謝しております。

 また新しいスタッフによる「かかりつけ医通信」発行に向けて努力し
てゆきますのでその時には、改めてご案内致します。
 今後ともよろしくお願い申上げます。

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▼目次▼
1.ヒポクラテスは今:
2.皆さんと医療と個人情報保護法
  家族・親族への対応
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1.ヒポクラテスは今:
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 本来、医学はヒトの情報の上に成り立つ学問であり、古くは”ヒポクラ
テスの誓い”から私たち医師は守秘を心掛けてきました。しかし、医療
技術や情報技術(IT)の進歩と共に、医療の分野でもSARSや遺伝
子治療などのように世界各国がITを利活用して病魔との戦いに立ち向
かうようになりました。これらに伴い、「プライバシー」の概念も「個
人の秘密を侵されない権利」から「個人の情報を自分でコントロールす
る権利」へと変わり、1980年には「OECD(経済協力開発機構)8原則」
が発表されました。
 更に1995年にEUが出した「個人情報保護法制が未整備な国々へのEU
域内からの個人情報移転禁止の宣言」が契機となって世界各国は法制化
に本腰を入れるようになり、我が国でも「世界最先端のIT国家の実現に
向けて」と張り切る小泉内閣のもと、2003年5月に個人情報保護法が誕生
し、今年4月1日より施行されることになりました。

 一方、日本医師会でも2002年10月、「診療情報の提供等に関する指針」
を発表しています。これは個人情報保護法が「個人情報の保護と利用」を
目的とし、「自分に関する情報をチェックする為の開示請求」としている
のに対し、「医師と患者の信頼関係構築」を目的とし、「疾病と治療に対
する理解を深める為の開示請求」としています。この違いは、医学・医療
自体が襲い来る病魔との人類の戦いの歴史であり、その中では患者さんと
医師の信頼関係が必要不可欠、即ち、患者さんだけでは、また、医師だけ
ではこの戦いに勝つことは出来ない、という医療現場の特殊性にあると思
われます。そして2004年12月、厚生労働省から出された「医療・介護関
係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」は、こ
の日本医師会の指針を勘案したものとなっています。

 巷には個人情報保護法施行を絶好の商機と捉える方々も居られるようで
すが、訴訟社会アメリカの轍を踏まぬように、私達医師のみならず患者さ
ん、そして一般国民の皆さんにも、「厚生労働省のガイドラインに従って
貴重な病魔との闘いの記録一つひとつを大事に保護し、且つ、世界各地で
病魔と戦う人々の為に、有効に利活用する為の法施行」であることをよく
御理解戴きたいと願います。

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2.皆さんと医療と個人情報保護法:
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1)私たちの情報はどの法律で保護されるのでしょう?

 受診先が私立の医療機関の場合には個人情報保護法、国立の医療機関
(国立がんセンター、国立循環器病センターなど)の場合には行政機関
個人情報保護法、最近の独立行政法人化等の波によって従来は国立病院
であったものが独立行政法人等に移行した医療機関(旧国立大学医学部
付属病院[国立大学法人]など)の場合には独立行政法人等個人情報保
護法、そして地方公共団体が運営する医療機関(都道府県立病院・市立
病院など)の場合には当該地方公共団体が制定した個人情報保護条例の
適用対象となります。

2)私たちの情報の取り扱われ方が大きく変わるのでしょうか?

 医療機関の待合室には「個人情報の利用目的」が掲示されます。皆さん
の個人情報はその範囲で、匿名化など充分な個人情報保護に配慮した上で、
皆さんの病気の診断・治療に、そして引いては世界の人々の為の医学の進
歩に利活用されることになります。これは専門分化した現代の医療の現場
では活発な診療連携が不可欠であること、優れた医師は様々な学会誌、医
学雑誌に目を通しており、それらには世界各国からより選った症例報告が
多数掲載されていること、などから御理解戴けるかと思います。勿論、個
人情報の自己コントロール権保護が大前提ですから、異議がある場合には
申し出られれば、各医療機関で誠意を持って対応することになります。

3)個人情報保護法と厚生労働省のガイドラインはどこが違うのでしょう?

 個人情報保護法は全事業分野に横断的に適用されるもので、各事業分野
ごとの取り組みについ、ては所管省庁の責任においてガイドラインを定め
る、とされています。即ち、厚生労働省のガイドラインは、医療の分野の
特殊性をも勘案したものとなっています。

 例えば今回、本人の同意の重要性がより明確に打ち出されましたが、医
療の分野では終末期医療など、本人の同意の確認が困難な状況や、そうし
た状況下での遺産相続を巡る親族内の争いなど微妙な問題も多々あります。
しかし、「生存する個人」に関する情報のみを対象とし、親族関係の有無
とは無関係に広く代理人一般の開示請求を認める、とする個人情報保護法
だけでは、医療の現場に対応し切れません。一方、日本医師会の「診療情
報の提供等に関する指針」では、遺族からの開示請求にも言及し、開示請
求は親族や法廷代理人などに限るなど、医療現場の実情に添った指針とな
っています。厚生労働省はこの指針を尊重しつつ、全ての民間医療機関に
ガイドラインの遵守を求めているのです。

 繰り返しになりますが、病気と直面し戦う患者さん、その患者さんを支
える家族の皆さん、医療のプロとして助っ人する医師たち・・・その協力
体制の要となる個人情報の取り扱いをきちんと明文化し、互いに理解・納
得・同意した上で一丸となって病気と戦う、というのが今回の法施行の意
味であろうと思います。尚、これらの指針は厚生労働省及び日本医師会の
ホームページで公開されていますので、より詳しくはそちらをお読み下さ
い。
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○ 家族・親族への対応

 個人情報保護法案が実施されれば各医療機関は法律によりこれまでと違
った対応とらざるを得なくなります。

 例えば、患者さん個人の情報を第三者に提供する場面を解説してみます
と、基本原則は「特別な場合を除いて、情報の提供について本人の同意を
得ることが必要」とされ、家族も「第三者」とされていることです。

 日本医師会のガイドラインでは、家族・親族への対応として下記のよう
な説明がされています。
  ----------------------引用------------------------
 医療機関では家族、親族からの問い合わせにも、日常的に遭遇するはず
です。しかし、家族、親族への対応は、事案によってはもっとも慎重さが
要求される場合があります。家族構成、家族間の関係のあり方は、家族ご
とに異なりますし、さまざまな理由から、患者さんは自分の病気のことを、
すべての家族、あるいは特定の家族に伝えてほしくないと考えることがあ
ります。
 心配をかけたくないという理由だけでなく、遺産相続に関係して家族の
なかの特定の者には病状を伏せておきたい場合、また未成年者の患者では
親には知られたくない診療内容を含む場合など、さまざまな事情が考えら
れます。
しかし、他方において、患者さん本人に病名を告知できない場合などには、
病状や治療方法に関する説明の受け手として家族特に近親者の果たす役割
は極めて重要です。
 患者さんの診療内容、患者さんの考え方によっては、家族であるからこ
そ知られたくないという事例もあり、また一方で、家族にはすべてを知ら
せておくのが当然と判断される場合もあることを、医療提供者としては十
分に認識しておく必要があります。
 さらに、家族の範囲についても、必ずしも法律上の定義にこだわること
なく、いわゆる内縁関係にある人や実質的に患者さんの身の回りの世話や
看病をしている人も、患者さんの申し出にもとづいて家族に準じた扱いを
することが厚生労働省ガイドラインでも定められています。
 ちなみに2000年から実施されている日本医師会の「診療情報の提供に
関する指針」でも、すでに家族の範囲についてそのように取り扱ってきた
ことは、周知のとおりです。

 このような事情を踏まえれば、家族、親族への情報提供について、ここ
で一律に定めることはできませんが、基本は、家族、親族といえども患者
さん個人とは別個の存在であるという前提で対処すべきです。すなわち、
家族、親族への情報提供に際しては、患者さん本人の意向に応じ た対応を
とることが要求されます。
 もちろん、意識不明であったり、正常な受け答えができない状況で医療
機関に搬送されてきた場合などに、連絡可能な家族などに状況を伝えるこ
とは、むしろ社会的に許される当然の措置といえま す。
   --------引用終わり--------------

 このように、家族も第三者とされますので悪性腫瘍の告知や説明に関し
ても、まず本人の承諾を得てから家族に説明することになります。
 これまでは、本人の判断が難しいと考えられたり、直接の告知に問題が
あると思われたりしたときには、まずご家族に説明して、本人への告知を
了解してもらう場合などもありましたし、家族と同席で説明することが多
かったと思います。医療の現場では、個人本人よりも家族を含めた方たち
への説明や同意が必要であったと思います。
 ところが今回の法律は本人個人を最優先しているため医療の現場では、
実情とあわないことも出てくると思います。家族や親族への病状説明に
ついて、診察時に患者さんから、「病状を説明して良い家族・説明しては
いけない家族」の氏名を求める書類なども用意されている医療機関もある
ようです。しかし、高齢者の重症疾患が増えてきますと、実際には本人の
意思確認は困難な場面が多く、あまり厳密な運用を要求されると医療現場
は対応できないことも多いと思います。

 この個人情報保護法の趣旨は、個人情報を守るだけではなく、個人情報
を利活用するための法律であり、「個人の情報をコントロールする権利は
個人にある」ということを守りながら、患者さんの利益になる情報交換は
行わなくてはならないと思っています。
 4月からは、個人情報保護法案の実施により、各医療機関でもいろんな
手続きがされ留と思いますので、患者さん・ご家族のご協力をお願いしま
す。

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●参考資料・参考サイト
 たくさんの参考資料が用意されています。
 どんな運用になるのか、まだ不確実のことも多くありますが
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1)ヒポクラテスの誓い(原文:小川鼎三訳)
http://www.kanazawa-med.ac.jp/mic/rinri/hippocrates.html

2)ヒポクラテスと医の倫理
http://www.sikai-web.com/hippocrates.htm

3)OECD8原則
個人情報保護法とは:国際的・歴史的な背景
http://www.nec-nexs.com/privacy/about/background.html

4)OECD8原則とは─意味・解説:IT用語辞典
http://e-words.jp/w/OECD8E58E9FE58987.html

5)診療情報の提供に関する指針(日本医師会)
http://www.med.or.jp/nichikara/joho2.html
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●個人情報保護法 QandA
1)個人情報保護法全面施行にむけての説明会 資料
日本臨床内科医会のホームページ: 作者;高橋徳氏
http://japha.umin.jp/kojin_joho/index.htm

2)個人情報保護法に関するQ&A
(全日本病院協会 個人情報保護法ワーキングチーム編) (PDF)
http://www.ajha.or.jp/about_us/activity/zen/20050308-8.pdf

3)「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象と
するガイドライン」等に関するQ&A
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/privacy/privacy_qa.pdf
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●安心して個人情報を取り扱うためには
http://www.iajapan.org/rule/jinken2004.html
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◆日本医師会:医療機関における個人情報の保護(PDF:1.3Mb)
http://www.med.or.jp/japanese/members/info/kj_hogo.pdf

上記資料の要約(〜東京の安藤潔先生 作成HP:随時更新中)
http://www.chuo-med.jp/renkei/kojinjyouhou0502.htm

◆個人情報保護法 院内体制づくりのために
(日医作成資料から、院内体制作りに必要な「院内用書式」と
「院内規則」のモデルをピックアップしたHP 
〜栃木の長島公之先生 作成)
http://www.docbj.com/kjh/

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◆全日本病院協会
個人情報保護法施行に伴う医療機関における準備事項等に関する資料
提供について
http://www.ajha.or.jp/about_us/activity/zen/20050308.html
(全日本病院協会 個人情報保護法ワーキングチーム編) (PDF)

◆日本病院会
「個人情報保護法施行に伴う準備事項」の院内掲示用ポスター等
http://www.hospital.or.jp/pdf/06_20050221_01.pdf
2005.02 個人情報保護法施行に伴う準備事項
http://www.hospital.or.jp/pdf/06_20050210_01.pdf

◆日本看護協会
看護実践情報より(3/1new)
http://www.nurse.or.jp/senmon/index.html#2
看護記録および診療情報の取り扱いに関する指針(PDF633KB)
http://www.nurse.or.jp/senmon/kangokiroku.pdf

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◆厚労省
厚生労働分野における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン等
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/seisaku/kojin/index.html

医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのための
ガイドライン(平成16年12月24日通達)(PDF260KB )
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/12/dl/s1224-11a.pdf

医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会
http://www.mhlw.go.jp/shingi/other.html#i-kojin

「医療機関等における個人情報の保護に係る当面の取組について」
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/12/s1224-11.html

診療情報の提供等に関する指針(厚労省)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/06/s0623-15m.html

個人情報保護法と診療情報の提供等に関する指針との関係
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/09/s0909-5d.html

医療と「消費者契約法」
http://www.med.or.jp/japanese/members/teigen/keiyaku.pdf

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