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 かかりつけ医通信    第52号   2003年4月5日発行
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    健康・医療のお役立ち情報・・・医療の現場から
 私達は、医療の現場で働く臨床医です。実際の診療やネット上から
 得た健康と医療の役に立つ情報を、市民の皆さんにお届けします。
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われわれ、かかりつけ医通信編集部は、医師として人の命と健康を守る立場から
すべての戦争に反対します。
一般市民や子供たちへの戦禍がこれ以上拡がる前にイラク紛争の早期解決を望
んでいます。
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▼目次▼
 1)呼吸器感染 病原体の感染経路について
 2)SARS(重症急性呼吸器症候群)について
 3)医療の給付の現状
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○はじめに
日本政府は4月3日、
1)SARS(重症急性呼吸器症候群)が広がっている中国広東省、香港への不要
  不急の渡航延期を勧告、
2)両地域からの帰国者に対する検疫体制の強化、
3)SARSを強制入院も可能となる「新感染症」として取り扱う、

と発表しました。この感染症は今、イラク戦争と並んで世界の衆目を集めていま
す。病原体は新種のウイルスとされているものの、感染経路や検査法・治療法が
未確定で、私たち現場の医師も正確な最新情報の収集に努めているところです。
世界中が注目している疾患であり、各国々でその対応も異なり情報も錯綜してい
ますが、今回は本日までの情報を御紹介します。
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○呼吸器感染症について

 感染症のキーワードについては第25号(下記1)の院内感染総論で触れました
が、呼吸器感染症の病原体としてはウイルス、クラミジア、リケッチア、細菌、
真菌、寄生虫などが挙げられます。ペニシリン誕生に端を発した抗生物質の目覚
しい進歩は多くの病原体を克服してきました。しかし、既に今季、流行のピーク
を越えたインフルエンザを含め、抗生物質はウイルスには無効であり、治療には
抗ウイルス薬が必要です。従ってSARSについても、現時点では根本的治療薬
が無く、感染予防対策がより重視される次第です。
1)かかりつけ医通信(第25号):
http://www.docbj.com/kkr/kako/025.htm

○病原体の感染経路
 病原体の感染経路には下記の3つがあり、これを念頭に置き、夫々の病原体の
特徴に応じた対策を講じる必要があります。
(1) 空気感染(飛沫核感染)
 空気感染とは結核,麻疹,水痘、アスペルギルス,レジオネラ,クリプトコッ
 カスで見られるもので、微生物を含む直径5ミクロン以下の微小飛沫核が長時
 間空中を浮遊し、空気の流れによって広範囲に伝播される感染様式をいいます。
 感染力が強く二次感染を引き起こす前3者では、
 a)空調設備のある個室に隔離する、
 b)医療者はN95 マスクを着用する、
 が必要とされています。
(2) 飛沫感染
 飛沫感染とはインフルエンザ,風疹,マイコプラズマ,百日咳菌などで見られ
 るもので、咳,くしゃみ,会話などで直径5ミクロン以上の飛沫粒子が飛散し、
 約1m の距離内で濃厚に感染を受ける可能性があるとされています。患者さん
 と一定の距離を取ることやマスク装着による飛沫予防策がポイントとなります。
 因みに飛沫阻止率はサージカルマスクではほぼ100%、ガーゼマスクなどでは
 70% 前後と言われています。
(3) 接触感染
 接触感染とは普通感冒(いわゆる”かぜ”)のウイルスやMRSA,O-157,
 赤痢、ロタウイルス、A型肝炎ウイルス、単純ヘ ルペスウイルスなどで見られ
 るもので、感染源との接触した手・体による直接接触、或いは患者に使用した
 物品や環境表面との間接接触によって成立します。手洗いの励行は勿論、病原
 体に応じて手袋・ガウンなどの使用、聴診器など器具の共用禁止、消毒薬の使
 用、個室隔離など、様々な接触伝播経路における予防策がポイントとなります。

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○SARS(重症急性呼吸器症候群)について

 昨年11月中国広東省で異型肺炎の報告があり、注目を浴び始めたのは今年2
月下旬、上海・香港等を旅行したアメリカ人が、ベトナム・ハノイで体調を崩し
入院し、3月上旬約20人の入院先の医療スタッフが同様の症状を示してからで
す。4月2日時点で世界18カ国に広がり、2,223名が発症、うち78名が
死亡していますが、3月15日のWHOの緊急情報以来、孤発的な症例の報告のみで、
二次的な集団発生は見られません。

 現時点での情報を要約すると潜伏期間は2〜7日で最大14日、主症状は38℃
以上の高熱、痰を伴わない咳、息切れと呼吸困難で、胸部レントゲン写真で肺炎
の所見を呈します。病原体は新種のウイルスである可能性が高いとのことで、3
月24日のWHOのガイドライン改訂版は飛沫感染を念頭において作成されていま
すが、空気感染の可能性も否定されていません。しかし、感染性はインフルエン
ザ・ウイルスほど高くないようです。

 予防及び治療の為に推奨される薬剤は無く、抗生物質は無効です。インフルエン
ザ同様、抵抗力の落ちた方では重症化することも予想され、SARSの国内感染が報
告されている中国、香港、シンガポール、ベトナム、カナダから今年2月1日以
降に帰国された方は、少なくとも2週間、自分が感染源になりうることを念頭に、
慎重な行動をお願いしたいと思います。

 現在、日本では医療機関の外来での感染拡大を防ぐ為に、SARS流行地の香
港、中国広東省からの帰国者には、空港などで配布される「健康カード」を通じ
て感染が疑われる場合は、事前に医療機関に電話連絡をした上で受診するよう指
導が行われています。

これを受けて4月3日、日本医師会は都道府県医師会に対し、該当者から電話
連絡を受けた場合、
 1)診察の順番を繰り上げるなどして該当者の待合時間を可能な限り短縮する、
 2)一般の外来患者とは別の部屋で待機させる、
 3)マスクを着用させる、
などの対応を講じるよう、会員医療機関に周知することを求めました。また、
厚生労働省が同日、都道府県宛てに出した通知では、特定感染症指定医療機関
だけでなく、第1種感染症指定医療機関などもSARS受け入れ先として考慮
するよう指導していますが、第1種医療機関の指定も12病院に止まっている為、
日本医師会はSARSが疑われる患者の受け入れ医療機関を早急に決定するよ
う、各都道府県医師会からも都道府県行政に強く働きかけるよう促しています。
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【特定感染症指定医療機関:1医療機関(2床)】
  ◆市立泉佐野病院(2床・大阪府)
【第1種感染症指定医療機関:12医療機関(22床)】
 ◆山形県立中央病院(2床・山形県)
  ◆成田赤十字病院(2床・千葉県)
 ◆東京都立荏原病院(2床・東京都)
 ◆東京都立墨東病院(2床・東京都)
 ◆新潟市民病院(2床・新潟県)
 ◆大津市民病院(2床・滋賀県)
 ◆大阪市立総合医療センタ−(1床・大阪府)
 ◆市立堺病院(1床・大阪府)
 ◆市立泉佐野病院(2床・大阪府)
  ◆神戸市立中央市民病院(2床・兵庫県)
 ◆熊本市立熊本市民病院(2床・福岡県)
 ◆福岡市立こども病院・感染症センタ−(2床・福岡県)
――――――――――――――――――――――――――――――――
○香港保健省のQ&A
 飛沫感染・接触感染を念頭に置いた香港特別区の香港保健省のQ&Aから
一部内容をご紹介します。
 日本では国内における、一般向けの確かでわかりやすい解説がまだないため、
伝播確認地域における情報を紹介させていただきますが、必ずしも全てが、
日本の事情にあてはまるわけではないことを、ご承知おき願います。
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【疾患について】
1.SARSとは?
 香港を含む多くの地域で最近報告されている急性呼吸器感染症で、新しい病原
 体とする非典型的な肺炎である。

2.原因は?
 香港大学による最近の研究でコロナウィルスが主な原因と示唆されている。

3.死ぬのか?
 多くの場合は死なない。早期発見と早期治療が回復のために重要。重症のケー
 スは多くの他の病気を持つか、かなり進んだ状態で治療をはじめているケース
 である。

4.潜伏期間は?
 典型的には2−7日

5.症状は?
 主な症状は、発熱(38度以上)、全身倦怠、さむけ、頭痛、全身痛。胸部レ
 ントゲン写真で肺炎の所見。他の症状として咳、息切れ、呼吸困難。

6.検査は?
 胸部レントゲン写真で診断の手助けになると思われる。コロナウィルスを検出
 する迅速検査の開発を急いでいる状態。

7.治療に役立つものは?
 はい、香港の経験によれば、患者はリバビリン(広範囲対応型抗ウィルス薬)
 とステロイド治療で良かったとのこと報告もある。他の治療は今開発中。

8.この肺炎と従来の肺炎との違いは?
 従来の典型的肺炎は主に肺炎球菌などの最近によって生じる。異型肺炎は主に
 インフルエンザやアデノウィルスといったウィルスやクラミジア、マイコプラ
 ズマや他の原因不明の病原性により生じる。

9.インフルエンザと異型肺炎の違いは?
 SARSと違って、熱、咳、頭痛といったインフルエンザの場合は、通常、重症の
 合併症や肺炎の所見がないまま数日以内に改善する。

【感染・ひろがり】
10.SARSはどんなにひろがるの?
 飛沫(咳などのしぶきによる)や患者の分泌物にさわるかによりひろがる。

11.空気感染の証拠は?
 利用できる情報や科学的解析の結果に基づいた検討では、感染は多くは咳など
 のしぶき(飛沫)や患者の分泌物によるものということで説明できる。

12.お金を扱って病気がうつるか?
 お金を扱ってうつるという証拠はない。しかし、個人で衛生に気をつけ、手洗
 いを頻回にすることにみな気をつけなければならない。

【予防】
13.ワクチンはあるか?
 まだ利用できるワクチンはない。

14.予防にはどういうステップをすれば役立つか?
 ひとりひとり自分の衛生状態を維持する:くしゃみや咳のときにはティッシュ
 で鼻や口をカバーし、液状石けんで即座に手洗いをする。使い捨てタオルを使
 用したり、ハンド・ドライヤーを使用する。健康なライフスタイル、規則的な
 運動、適切な休養、禁煙を維持すること。自宅や仕事場でも換気を充分に気道
 感染のあるひとやそれを世話しているひとはフェースマスクをかぶるべき呼吸
 器系の感染症の症状が現れたらすぐに医療機関受診を。

15.会社でうつらないこつ
 もし体調不良なら、従業員は早期に医療機関受診し、休養をとる。全スタッフ
 とも個々の健康管理に気をつけ、健康なライフスタイルを保つ。オフィスは換
 気を充分に、窓は時間ごとに開ける。エアコンのメンテナンスと清掃を定期的
 に行う。オフィス家具や備品は清潔を保つ。

16. エレベーター内での予防は?
 ビル管理はエレベーターと共用アクセス部分を重視し清潔に保たなければなら
 ない。エレベーターのコントロールパネルやドアノブは完全にそして頻回に消
 毒液や稀釈した漂白剤で清潔を保たなければならない。

17. 医療機関施設に行くときの留意点は?
 当局から医療機関の全医師に対して疾患の拡大を予防するためのアドバイスが
 送られている。受診先を求めるひとは常に良好な衛生状態を維持しなければな
 らない。手洗いを充分に。フェースマスク装着をすること。

18.家族や友人がSARSにかかった場合どうすべきか?
 まず、異型肺炎患者へのお見舞いを含め接触をさけること。
 患者と密に接触している場合は:
 △検疫規則をみよ。自宅にとどまり、10日間サーベイランスセンターに毎日
  報告する。
 △自宅から出なければならない場合、フェースマスクを着用し、個々人の衛
  生に努めなければならない。
 △関した患者に接触したと思えるときは少なくとも10日間はフェースマスク
  を着用し、医療機関を受診しなければならない。
 △自宅では、オモチャや家具を適切に清潔にする (漂白剤1に対して49の水
  で稀釈)
 △自分の健康と衛生に気をつけること。手洗いを頻回に
 △もし気分不良なら医療機関受診を

19.当局は診断確定したひとのいる家を消毒するのか?
 いいえ、しかし家族や接触を持ったひとに対して消毒するよう助言する。

20.病院受診後衣服を洗うべきか?
 はい、帰宅後すぐに洗うこと。

21.自宅やレストランについて当局はアドバイスをしている内容は?
 食器を共有しない。給仕用のスプーンや箸の適正使用を勧める。

【フェースマスク】
22.フェースマスクで疾患が予防できるか?
 はい、フェースマスクは疾患予防に役立つ。装着する前に手洗いを確実にす
 ること。

23.フェースマスクをかぶるべき?
以下の人々はフェースマスクをかぶるべき:
 △呼吸器感染症状のあるひと
 △呼吸気感染症状のあるひとを世話しているひと
 △異型肺炎の確定したひとと密に接触しているは少なくとも接触後10日はフェ
  ースマスクをしなければならない
 △ 医療機関勤務者

24.どのタイプのフェースマスクを使用すべきか?
 通常の手術用フェースマスクは飛沫(咳などのしぶきによる)感染予防に有効
 である。

25. N95フェースマスクは異型肺炎予防に唯一有効というのはホントか?
 サージカル・フェースマスクとN95は両方とも飛沫(咳などのしぶきによる)
 感染に対して予防できる。

26.どれくらいの頻度でフェースマスクを交換すべきか?
 一般的に、サージカル・マスクを毎日換える必要がある。壊れた場合には即時
 に交換すべき。
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○N95マスクとは

 SRASの予防対策としてマスクの利用は、どの国でも推奨されています。
むしろマスクの需要が急増して生産が追いつかないことも報道されています。
その中で「N95マスク」という言葉がよく出てきますので、N95マスクに
ついて簡単に説明しておきます。

N95マスクとは
 感染性の飛沫核を吸入しないようにするための微粒子用マスクのことです。
1ミクロンの粒子が95%以上除去され、防水も施されているので汚染血液や体液
の飛沫に対しても効果があると考えられています。
 素材の目が極めて細かいので長時間装着すると息苦しく感じることがあります。
 このマスクは普通はあくまでも医療従事者が感染を受けないために使用するもの
で、予防には普通のマスクの装着だけでよいと思いますが、SARSの場合には
医療機関を受診した患者には現在はN95マスクを着用するように勧告している
国もあります。
本邦ではスリーエムヘルスケア社の製造販売であり、現在の価格は1枚約200円
です。品不足が報道されています。
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なお重症急性呼吸器症候群(SARS)に関連した情報は時々刻々と変化していま
す。最新情報に関しては以下のサイトをご参照下さい。
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1)日本医師会HP
http://www.med.or.jp/kansen/sars/
2)厚生労働省HP
http://www.mhlw.go.jp/topics/2003/03/tp0318-1.html
3)国立感染症研究所
http://idsc.nih.go.jp/others/urgent/update.html
4)SARS(重症急性呼吸器症候群)の情報源:
http://www.geocities.co.jp/Technopolis/7663/
5)世界保健機構(WHO)HPの関連情報 *英語
http://www.who.int/csr/sars/en/
6)米疾病予防センター *英語
http://www.cdc.gov/ncidod/sars/
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●医療の給付の現状

はじめに
 今までどの様な理念で、医療の給付が行われてきたのか確認しておきましょ
う。このような理念が、現在の世界に冠たる医療制度を造り上げてきたわけで
す。しかし現在、小泉内閣は患者さんへの医療サービスの向上の名の元に株式
会社の導入と、混合診療の導入等を図ろうとしております。医療の財源がない
から医療の範囲を抑制して混合診療を導入するという主張では、医療費の増大
と、医療の質が低下すると思われます。貧しい方のみならず、中流階層の方も
医療が受けれなくなると思われます。セーフテイネットとしての医療の財源の
確保を行うべきです。医療特区については、かかりつけ医通信「第45号」
2002年12月6日発行でも述べておりますのでご覧ください。
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○社会保障給付費の範囲

 我が国の健康保険法では第二条に「国民健康保険は、被保険者の疾病、負傷、
出産又は死亡に関して必要な保険給付を行うものとする。」と定められており、
また社会保障給付費の範囲は、ILO(国際労働機関)が国際比較上定めた社会
保障の基準に基づいて決定されています。

ILOによる社会保障の基準は次のようなもので、以下の3基準を満たすすべて
の制度を社会保障制度と定義しています。
 1) 制度の目的が、治療的又は予防的医療を提供するもの、所得保障を行う
  もの、あるいは扶養家族に対して補足的給付を提供するものであること。
 2) 制度が法律によって定められ、それによって特定の個人に権利が付与さ
  れ、あるいは公的、準公的、若しくは独立の機関によって責任が課せられ
  るものであること。
 3) 制度が公的、準公的、若しくは独立の機関によって管理されていること。
 ただし、業務災害補償は、その責任が直接事業主に課せられているので、上
 記3)を満たさないが、社会保障に含める。
 上記の基準に従えば、社会保障制度として、社会保険制度(雇用保険や労働
者災害補償保険を含む)、家族手当制度、公務員に対する特別制度、公衆衛生
サービス、公的扶助、社会福祉制度、戦争犠牲者に対する給付などが含まれる。
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○医療保険とは

 医療保険では疾病,負傷,死亡,分娩に対して保険給付が行われます。
 この保険給付は医療給付と現金給付に大別されます。
 医療給付は医療保障的な性格を持つ給付であり,療養の給付,家族療養費,
入院時食事療養費,特定療養費などが含まれます。現金給付は所得保障的な
性格を持つ給付であり,傷病手当金,出産手当金,出産育児一時金,移送費,
埋葬料が含まれます。

 医療給付は現物給付(療養の給付)を原則としていますが,現物給付を行
うことが困難な場合は,“療養費払い”といって,医療機関の窓口で現金で
支払い,あとで保険者からその費用の還付を受けることも認められています。
これには,(1)はり・灸,(2)マッサージ,(3)柔道整復,(4)治療用
装具,(5)輸血用生血などが含まれます。
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○保険医療の範囲

1.診療
 体に異常があれば、いつでも健康保険証を提出することにより医師の診療が
 うけられます。必要があれば、往診も認められます。ただし、往診の自動車
 賃は患者が負担することになっています。診察に必要な検査も受けられます。

2.薬の支給
 治療のために必要な薬が保険から支給されます。しかし、いま製造されてい
 る薬が全部健康保険で使えるわけではなく、厚生省が定める「薬価基準」に
 収載されている薬品に限られます。
 医師に処方箋を書いてもらったときは、保険薬局へ行って調剤してもらうこ
 とができます。この処方箋の有効期間は、特別の場合を除いて交付を受けた
 日から3日間です。

3.治療材料の支給
 直接治療に用いるガーゼ、包帯、眼帯などの治療材料は、保険で認められま
 す。義手、義足、松葉杖などは、治療に必要な期間だけ貸してもらえます。

4.注射、処置、手術などの治療
 注射、包帯、ガーゼの取り替え、薬の塗布、患者の洗浄、点眼、点鼻、点耳、
 酸素吸入、浣腸、人口呼吸などの処置や患部の切開、切除、縫合などの手術
 はもちろん放射線療法、慢性病の療養指導などもうけられます。

5.入院
 健康保険を扱っている医師が必要と認めれば、一部負担金(自己負担分)を
 支払うことにより入院できます。入院中は食事も支給されます。

6.特定療養費制度
 特別なサービス(選定療養)や高度先進医療を受けた場合,療養全体にかかる
 費用のうち,一般の保険診療と共通する基礎部分についてのみ保険給付し,
 特別なサービスや高度先進医療にかかる費用を患者等の自己負担とする制度を
 特定療養費制度といいます。
 現在、特定療養費制度として認められているのは下記の通りで、実際の自費負
 担にあたってはそれぞれにルールが定められています。

 1. 特別の療養環境の提供(特別室)
 2. 前歯部の金属材料差額
 3. 金属床総義歯
 4. 200床以上の病院についての初診
 5. 200床以上の病院についての再診
 6. 予約診療
 7. 診療時間外の診療
 8. 治験に関する診療(*)
 9. う触患者の指導管理
 10. 薬事法に基づく承認を受けた医薬品の授与
 11. 入院期間が180日をこえる入院
 12. 高度先進医療

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○健康保険で受けられない診療

1. 業務上・通勤途上の病気、ケガ
 勤め先の仕事が直接の原因となって起きた病気やケガ、または通勤途上の事
 故による病気やケガは健康保険ではとり扱われません。これは、労働基準法や、
 労災保険法などの法律に基づいて診療を受けられることになっています。

2. 病気とみなされないもの
 次のような場合には、病気とみなされないので、保険による診療を受けられ
 ません。
 単なる疲労、二重瞼の手術、ホクロ、ソバカスとりなどの美容整形、近眼の手
 術、先天的の皮膚の病気、正常な妊娠、お産、これからの場合でも、特に仕事
 や日常生活に支障のあるもの、例えば、斜視で仕事に支障を来すもの、他人に
 不快感を与えるワキガや後天的の女子の顔のシミ、つわりが特にひどい場合な
 ど保険で診療を受けられます。  

3. 健康診断やそのための検査 予防注射
 例外として、ハシカ及び百日咳が流行し、同じ家庭内にまだかかったことが
 ない人の場合は、その人に対してハシカなどの予防注射が認められます。

4. 経済上の理由による妊娠中絶
 優生学上の立場から不良な子孫の出生を防ぎ、同じに母体の保護を計るとい
 う趣旨から母体保護法という法律が作られた。この法律では、優生学上の理由
 による不妊手術のほか母体が弱っている場合、暴行による場合、経済上の理由
 による場合の妊娠中絶を認めています。このうち経済上の理由による妊娠中絶
 は保険ではできません。また、強制不妊手術は全額国の費用で行われます。

5.その他の制限

イ.不正または不当な行為に対する制限。
 次のような場合には、健康保険による診療が受けられなくなります。

 故意の犯罪行為または故意に事故を起こしたとき 喧嘩、麻薬中毒などで事故を
 起こしたとき 医師の指揮に従わなかったり、不当な利用なく保険者の診断を拒
 んだとき 詐欺や不当な行為で給付を受けたようとしたとき

ロ.無診察治療の禁止
 例えば外来患者が多く、病状が安定している高血圧等の慢性疾患の外来通院患
 者で診察する時間がない等の理由で、診察することなく投薬を行ういわゆる
 「無診察治療」を行うことがあるかもしれませんが、患者個人個人の病気の種
 類及び程度、これに対応する治療は、その都度医師の判断が必要となります。

 そのため、医師法第20条では、「医師は、自ら診察しないで治療をし、若
 しくは診断書若しくは処方箋を交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書
 若しくは死産証明書を交付し、又は自ら検索しないで、検索書を交付してはな
 らない。ただし、診察中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付す
 る死亡診断書については、この限りではない」と規定されています。

ハ.混合診療の禁止
 保険診療を行いながら、併せて診療報酬点数の定められていない手術や検査、
 薬価の定められていない薬剤に係る薬剤料等を患者から徴収したり、社会保険
 診療報酬支払基金等の審査で減額査定される部分の負担を患者から求めること
 は、保険診療と自費診療の混合となることから認められないことになっていま
 す。

ニ.自己診療
 医師自身が自分自身に対して行う診療を自己診療といいます。これについては、
 健康保険上保険給付の対象として認められないとされているので、注意してく
 ださい。

これら保険診療上の規則は「保険医療機関及び保険医療養担当規則」によって
定められており保険医はこの規則によって診療しています。
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○昭和31年度 医療保障制度に関する勧告について

昭和31年と言えば、まだ日本の国民健康保険制度も創設の時期ですが、この時
審議会が政府に答申した「医療保障制度に関する勧告について」という文章を
見つけましたので少し長文ですが「医療給付水準」についてご紹介します。
ほぼ半世紀経過していますが、今でも通用する格調高い勧告です。ただ当時と
今と、医療制度の実情はとほとんど変わっていません。

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第5章 医療給付水準
1 医療給付水準の意味
 われわれの理解するところでは、医療給付水準というのは、社会保障制度が
いろいろな形において給付する医療の水準であって、その中味としては、医療
の内容、医療給付の範囲、医療給付の期間および医療給付の給付率を含んでい
る。

2 医療内容の均質性
 社会保障における医療の給付水準をこのように理解するとすれば、まず明確
にしておかねばならないのは、医療の内容が制度によって異なってもよいかど
うかということである。たとえば、現行制度では扶助の場合も保険の場合もこ
れを区別せず、同一の内容のものを提供しているが、これは医療担当者の心構
えとしてはともかく、現実には問題であると主張する者がある。しかし、いか
に財政上の困難があるとしても、医療保障制度が社会保障制度の一環であるか
ぎり、生命尊重の本義はこれを忘れてはならない。その意味において、当事者
の拠出を前提とする医療保険であっても、また単に一方的に公費によって賄わ
れる医療扶助であってもいやしくもそれが医療であるかぎり、その内容が異な
ってはならない。もちろん健康保険と国民健康保険、第一種健康保険と第二種
健康保険などの間において、これを区別するごときことは、断じて許すべきで
はない。

3 効率的な医療
 しかしいかに生命尊重の本義を忘れてはならないといっても、そこで行われ
る医療の内容に無駄があり、ぜい沢があってはならない。医療保障が社会保障
制度の一環であるかぎり、そこで保障される医療の内容は必要にしてかつもっ
とも効率的な医療でなければならぬ。診断、治療、投薬、注射その他治療材料
の支給や検査などについてこの原則が守られねばならないとともに、とくに医
療の設備や施設についても、それが「必要にしてもっとも効率的」なることが
要請されるのは当然のことである。なお、ここで「効率的」というのは、まず
第一には、それが技術的にみてもっとも効果的であるということであり、第二
には、経済的に無駄があってはならないということを意味する。もちろんその
場合においても、高くともより効果があり、早くなおる方法があれば、これを
採用するという意味である。そこでこれと関連して現在、社会保障制度として
はぜい沢すぎる医療設備や施設がありはしないか一応反省してみる必要がある。
 もちろん医療保障がひとしく国民に必要にしてかつもっとも効率的な医療を
確保しようとするものであるかぎり医学、医術の進歩をできうるかぎり助長し、
その成果を活用するように配慮するのは当然である。しかし、新しい診療方法
の採用については、その効果が的確であり、かつ効率的であるかどうかを十分
に確認する必要があるとともに、すみやかにこれを採り入れる据置を講ずべき
である。なお、これが採用に当っては、たとえば、現行の結核の場合のように、
各科別に治療指針を作り、その診療が効率的に行われるよう指導する必要があ
る。

4 予防給付の必要
 医療保障制度は本来傷病そのものを治療し、これにもとずく生活不安を防止
しようとするものである点にかんがみ、予防の面をも重視する必要がある。こ
のことは社会保障に関する国際条約が定めている最低基準の考え方からいって
も当然であるし、予防によってのみ発病は防止されることからいっても当然で
ある。医療の内容に予防措置を含めたのもかかる見地からであって、発病防止
のための協力こそは、医療保障の社会連帯的性格を貫ぬくためのもっとも有効
な措置の一つであることを忘れてはならぬ。かくてわれわれはまた当然に一定
の範囲における予防の費用、たとえば結核における健康診断や発病防止の費用
のごときは、これを給付のなかに採り入れるべきであることを主張する。
 なお、現在「疾病」とか「治癒」の概念は必ずしも明確ではない。そのため、
取扱いが区々になっているようであるから、これは治療指針などによって、明
確にする必要がある。

5 労災保険における医療
 また現在、その診療報酬支払制度が異なっているため、業務上の傷病に対す
る医療と業務外の傷病に対する医療とがその内容を異にする場合がないではな
い。しかし、本来の筋合からいえば、業務上の傷病についても、業務外の傷病
についても、同一内容の医療がなさるべきであることは、保険による医療と扶
助による医療がその内容を異にしてはならないのと全く同様である。したがっ
て、この点については反省してみる必要がある。もちろん そうだからといっ
て、現在業務上の傷病について行われている医療の内容がレベル・ダウンする
がごときことがあってはならぬ。

6 医療給付の範囲
 つぎに、医療給付の範囲であるが、これは疾病負傷の区分とか看護、移送、
給食ごときものの取扱いをいうのであって、理想的には各制度によって区別さ
れるのは好ましくなく、均一化に向うべきであるが、現実の問題としては、制
度によってある程度の区別はやむを得ないのではあるまいか。たとえば、健康
保険の場合には給付として認められるが、医療扶助の場合には認められないも
のがあっても差支えないのではないか。禿頭病とか見苦しい程度のニキビのご
ときものはそういったものである。しかし、今日の国民健康保険において、入
院患者の給食や移送料など給付の制眼がなされているものが多いが、かかる区
別は好ましいことではない。またたとえ医療扶助であっても看護や移送につい
ては、生命尊重の本旨を貫くべきであることはいうまでもない。

7 医療給付の期間
 健康保険については一定の期間にこれを限定しているが、少なくとも使用関
係がある場合には、転帰まで、給付を行うのが筋合のように思われる。そこで、
もし現行制度のごとく一定期間にこれを限定するとすれば、原則としてその期
間後は廃疾として処理されることが望ましい。
 またわれわれは、さきに、第二種健康保険については、その給付水準を幾分
低くしてはどうかということを提案しておいたが、それは、医療の内容や医療
給付の範囲についてではなく、医療の給付期間や受給条件についてである。た
とえば、第一種健康保険に比較して幾分その給付期間を短かくするなどの措置
をとってはどうかということである。

8 医療給付の給付率
 現在、健康保険の被保険者は医療費の全額を給付されるが、その披扶養者や
国民健康保険の被保険者は医療費の5割しか支給されていない。これは、給付率
が相違している一つの例である。いま、われわれが医療保障制度の推進を考え
るに当り、未加入者の医療保険と並んでその実現を望んでやまないのは、この
給付率のアンバランスの是正である。すなわち、国民健康保険の被保険者や健
康保険の被扶養者の給付率を健康保険の被保険者のそれに近づけるために、こ
れを少なくとも7割程度に引上げるということである。そしてそのためには、も
ちろん、後に述べるような国庫負担の増額が必要であるが、この点政府の決意
を強く要請しておきたい。
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参考サイト
健康保険法
http://roppou.aichi-u.ac.jp/joubun/s33-192.htm

社会保障給付費の範囲
http://www.ipss.go.jp/Japanese/kyuhuhi-h7/1/P1.html

医療保険とは
http://www.fukui.med.or.jp/iryou/iryou.html
医療保険制度
http://www.naika.or.jp/manual/50.html

療養担当規則
http://www.osmk.or.jp/houreisyu/ryotan.htm
保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭32.4.30 厚生省令15)
(最終改定;平9厚令62)

http://www8.cao.go.jp/hoshou/whitepaper/council/1956iryohosho/index.html
昭和31年度 医療保障制度に関する勧告について

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