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 かかりつけ医通信    第69号   2004年 7月26日発行
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    健康・医療のお役立ち情報・・・医療の現場から
 私達は、医療の現場で働く臨床医です。実際の診療やネット上から
 得た健康と医療の役に立つ情報を、市民の皆さんにお届けします。
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▼目次▼
1)咽頭結膜熱(プール熱)が増えています。ご注意下さい。
2)標榜科目・専門医制度・医業の広告について
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○ 咽頭結膜熱(プール熱)が増えています。ご注意ください。

こんな注意報が先日厚労省ホームページに載りました。
http://www.mhlw.go.jp/topics/2004/06/tp0614-1.html

通常夏期に流行し、6月頃から徐々に増加しはじめ、7〜8月にピークとなる
のですが、昨年比較的大きな流行があり、今年はそれを凌ぐ大きな流行が見
られています。
定点報告数・過去10年間との比較グラフ
http://idsc.nih.go.jp/kanja/weeklygraph/PCF.html

今回は、厚労省や国立感染症研究所感染症情報センターのページを参考に
咽頭結膜熱(プール熱)について、簡単に説明します。
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○ 咽頭結膜熱とは、その病名の通り
 ・発熱
 ・咽頭炎
 ・眼症状(結膜炎)
 を主な症状とする小児の急性ウイルス性感染症です。
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○原因と流行時期

 原因はアデノウイルスというウイルスが、接触感染によって人に感染し、
ノドの痛み、結膜炎、高熱を発します。夏期にはプールを介して感染し流行
することが多いので[プール熱]とも呼ばれます。
 感染から発症までの潜伏期間は、約5〜7日といわれます。
 本疾患の原因であるアデノウイルスは、特に季節特異性がなく年間を通じ
て分離されます。しかしながら、咽頭結膜熱の流行は通常夏期に地域全体で
流行し、6月頃から徐々に増加しはじめ、7〜8月にピークを形成するといわ
れています。そして今年は大きな流行が見られているのです。
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○ 臨床症状と診断

 症状として、38度〜40度の発熱で発症し、頭痛、食欲不振、全身倦怠感と
ともに、咽頭炎による咽頭痛、結膜炎にともなう結膜充血、眼痛、羞明、流涙、
眼脂を訴え、それらの症状は3〜5日間程度持続します。
 前述しましたように
 ・発熱(38度〜39度)
 ・咽頭炎(のどの痛み)
 ・眼症状(目の炎症 結膜炎)が3つが主症状です。

 眼症状は一般的に片方から始まり、その後他方にも出現すると言われていま
す。また、結膜の炎症は下眼瞼結膜に強くみられますが、眼に永続的な障害を
残すことはないようです。

 一般的には予後は良好な疾患ですが、アデノウイルスの一部(7型)は基礎疾患
のある人、乳幼児、老人では重篤な症状となり、呼吸障害が進行したり、さら
に細菌の二次感染も併発しやすいことがあるので注意が必要です。
 その場合 検査所見として、血清LDH の異常高値、血球減少傾向、ならびに
高サイトカイン血症を示唆するフェリチン、β2 ミクログロブリンなどの上昇
を伴うことがあります。
 そのような重症例ではステロイド剤の適応を含め、早急な対応が必要であると
言われています。

 診断は臨床症状よりされますが、2001年に、アデノウイルス迅速診断キット
(アデノクロン@)が保険に採用されたので、咽頭ぬぐい液を検査すれば確定診断
が可能となりました。
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○ 治療・予防

 アデノウイルスに対する抗ウイルス薬は開発されていないので、特異的治療法
はなく、解熱剤や点眼薬など対症療法が中心となります。
 高熱が4〜5日間も続くことはよくありますが、水分摂取ができていればあまり
心配はありません。高熱や脱水でぐったりするようなら補液も必要なことはあり
ますが、入院するような重症はまれです。
 咽頭痛が強いので、刺激の少ない食物、例えば、ミルクセーキ、アイスクリー
ム、プリン、冷ましたおじやなどを与え、水分の補給にはスポーツドリンク、
みそ汁、牛乳、スープなどを飲ませるようにすればよいでしょう。
(今日の診療Vol.13 CD-ROM (C)2003   IGAKU-SHOIN   Tokyo)

 予防には、以下のことに気を付けましょう。
 ・流行時には、流水と石けんによる手洗い、うがいを励行する
 ・感染者との密接な接触をさける(タオルなどは別に使う)
 ・プールからあがった時は、シャワーを浴び、目をしっかり洗い、うがいを
  する。
 プールての流行に対しては、水泳前後のシャワーなど一般的な予防方法
 の励行が大切ですが、ときにはプールを一時的に閉鎖する必要もあります。
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○ 感染症新法

 平成15年11月に感染症法が改正され、その区分の見直しが行われましたので、
咽頭結膜熱は、届出が必要な4類(定点)感染症から、同じく届出が必要である
5類(定点)感染症へと区分が変更されております。

感染症法における取り扱い
 咽頭結膜熱は新5類感染症定点把握疾患であり、全国約3,000カ所の小児科
 定点報告機関から毎週報告がなされています。報告の基準は以下の通りです。

○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の
 2 つの基準をすべてを満たすもの
 1. 発熱・咽頭発赤
 2. 結膜充血
 また、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの

○ 学校保健法における取り扱い
 学校保健法では、第二種伝染病に位置づけられており、第20条に出席停止期間
の基準が定められており、これに基づいて対処しなければなりません。
 咽頭結膜熱は主要症状が消退した後2日を経過するまで出席停止とされていま
す。ただし、病状により伝染の恐れがないと認められたときはこの限りではあり
ませんので、かかりつけ医と御相談下さい。

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○参考サイト

病気や予防法、消毒について、詳しくは以下のホームページをご参照ください。
国立感染症研究所感染症情報センター
http://idsc.nih.go.jp/kansen/k03/k03_14.html
通年型になったプール熱
http://www.kenko.gr.jp/pool/

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2)標榜科目・専門医制度・医業の広告について

○ どの科を受診したら良いのか

 病気になって、何科を受診したら良いのだろう、と迷われた方も少なくないと
思います。
 診療所では○○内科医院とか△△外科医院のように、内科・外科を区別した標
榜をしていたり、また診察の臓器別に○○眼科・△△皮膚科医院などの専門科を
標榜していたりします。病院でも単科の診療だけの場合もありますが、いわゆる
総合病院では多くの診療科目が並んでいて、患者さんはどの科を受診したらいい
のか、途方に呉れてしまうこともあるようです。
 初期には似たような症状を呈する病気もあり、必ずしも単科で済まない場合も
あります。どの科を受診したら良いか、はケース・バイ・ケースで、案外、難し
いものです。普段から”かかりつけ医”を決めておいて、病気になったらまずそ
の医師を受診し、必要であれば専門の医師を紹介して貰うのが、結局は”急がば
回れ」であることが多いのです。
 今回は、病院や診療所の標榜科目・専門医制度・医療機関の広告規制などにつ
いてご紹介します。

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○ 医業等に関して広告できる事項
 
 医業を行う上で広告できる事項は医療法第69条で定められています。
これによると広告できる事項は 
 ■医師又は歯科医師である旨
 ■診療科名(政令で定めるもの、厚生労働大臣の許可を受けたもの)
 ■病院又は診療所の名称、電話番号及び所在地
 ■常時診察に従事する医師又は歯科医師の氏名
 ■診療日又は診察時間
 ■入院設備の有無
 ■紹介をすることができる他の病院又は診療所の名称
などです。
 近い将来医療法の改正とともに変更があることが予想されますが、基本理
念に大きな変化はないものと思われます。
 ただ、現行の医療法に従えば、広告の内容は、都道府県知事及び厚生大臣
の許可を受けた事項に限られており、医師の技能、治療方法、経歴、学位等
は広告出来ないことになっていました。
 これは医療を営利行為としてはならないという考えに基づくもので、医療法
第7条4項に明示されています。しかし、診療情報の開示が叫ばれる昨今、広告
という概念よりも情報開示という面からの改訂も始まっています。
 専門医制度の認定医師の院内表示や今回16年度の診療報酬改定で、手術料金
が減額されないために、外科手術の年間の症例数の院内表示が義務づけられ
たのもその現れだと思います。
 ただし、外部への広告と院内表示がまだ十分に解決しているわけではありま
せん。
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○ 標榜科目 診療科目

 標榜科目とは、病院や診療所に掲げてある診療科目の事で「この施設では
この領域について診察を行っています」と公に伝える目的で標榜するものす
が、これには医師法による規制があり、どんな名前で標榜しても言い訳では
ありませんし、麻酔科のように、特別に資格のある医師が厚生労働大臣に申
請して標榜することが許可されてるものもあります。

【標榜できる診療科名】
(政令で定めるもの、厚生労働大臣の許可を受けたもの)
内科、心療内科、精神科、神経科、神経内科、呼吸器科、消化器科、胃腸科、
循環器科、アレルギー科、リウマチ科、小児科、外科、整形外科、形成外科、
美容外科、脳神経外科、呼吸器外科、心臓血管外科、小児外科、皮膚泌尿器
科、皮膚科、泌尿器科、性病科、こう門科、産婦人科、産科、婦人科、眼科、
耳鼻いんこう科、気管食道科、リハビリテーション科及び放射線科
歯科については、歯科、矯正歯科、小児歯科、歯科口腔外科です。

 それぞれ、私たちに馴染みのある科名がほとんどですし、大きな病院に行
くとこれらの科名がずらっと並んでいます。また、診療所でも「内科、胃腸
科」のように複数の科名を標榜しているところも珍しくありません。

 でも、多くの病院や診療所ではめまい外来とか糖尿病外来とかを標榜して
いる事もありますが、これは公に伝える標榜科目とは言わないようです。
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○ 専門外来

 専門外来とは、特定の医師が専門とする領域の患者を集中して診察を行う
外来のことです。診療科よりももっと細分化された科と捉えても良いでしょ
う。
糖尿病外来、不妊外来、めまい外来、アレルギー外来などが有名で、このよ
うな代表的な病気に関しては比較的規模の小さな病院や診療所でも専門外来
があります。また、大病院では同じ診療科の中に、違った専門を持った医師
がたくさん所属しているため、臓器別に細かく専門外来を設置することがで
きます。
 これらの専門外来には、その疾患に詳しい資格を持った専門医が必要になり
標榜科目とは別に、専門医制度が進んで来ました。

 現在の医学・医療の進歩と社会のニーズ(需要)の変化に伴って、医療の
高度・専門化が進んでいます。いっぽうで病院や診療所(医院)には標榜科
名が法律によって規定されて表示されていますが、医師は自由に専門科を標
榜することができる制度でした。これではその医師の専門がほんとうは何科
で、何科に特技をもっているのかがよくわからないという問題がありました。
 そこで、医師が所属する各種医学会が、その専門の分野で医師が研修を重
ね、一定の基準の資格条件を満たしたかどうかを認定することが始まりまし
た。

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○ 専門医制度

 もっとも早かったのが麻酔科標榜医で、日本麻酔学会が麻酔医の資格認定
の先鞭をつけました。その基準は日本麻酔学会の会員歴(年数)をはじめと
して、その麻酔医が麻酔をかけた実績の評価と実地試験までおこない、その
すべてに合格することという公平なものでした。

《専門医とは》
最近各診療科で認定医や専門医という制度ができて、1つの資格として認め
られ、病院内に表示できるようになってきました。内科専門医や外科専門医
などです。
 日本専門医認定制機構では、5年間以上の専門研修を受け、資格審査ならび
に試験に合格して、学会等によって認定された医師を専門医と定義しています。

 厚生労働省は平成14年4月から施行した専門医広告の告示のなかで、専門
医資格を認定する学術団体の基準を定め、この基準に合致した団体によって
認定された専門医を、広告可能な専門医資格としています。
 これらの資格を持った医師は専門医を広告しても良い事になったのです。
平成14年4月には18の専門医の資格でしたが、その後追加され今年3月には
5つの専門医が認められ、現在34団体の下記の31の専門医資格が認められて
います。

【医療に関する広告が可能となった専門医資格名等について】

 整形外科専門医 皮膚科専門 麻酔科専門医 放射線科専門医   
 眼科専門医 産婦人科専門医 耳鼻咽喉科専門医 泌尿器科専門医
 形成外科専門医 病理専門医 内科専門医 外科専門医 糖尿病専門医
 肝臓専門医 感染症専門医 救急科専門医 血液専門医 循環器専門医
 呼吸器専門医 消化器病専門医 腎臓専門医 小児科専門医
 内分泌代謝科専門医 消化器外科専門医 超音波専門医 細胞診専門医

新たに追加された専門医
 透析専門医 脳神経外科専門医 リハビリテーション科専門医
 老年病専門医 心臓血管外科専門医
歯科医師
 口腔外科専門医 

その中で心臓血管外科専門医のように、複数の学術団体が共通の基準で認定
する専門医資格もあります。

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○ 参考サイト

医療審議会総会議事要旨
http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9901/s0118-2_10.html
MMSニュース No.17 医業等に関して広告できる事項
http://www.e-rapport.jp/mms/mms_17_01.htm
専門医について
http://www.isyadoko.net/information/sample/senmon-itiran.html
いわゆる「専門医資格」の広告について
http://www.med.or.jp/doctor/koukoku2002/koukoku.html
医療に関する広告規制の緩和について(平成14年4月1日施行)
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/04/tp0401-1.html

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 吉岡春紀:玖珂中央病院(山口県) 内科医
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 吉村研:吉村内科(和歌山県) 内科医
  http://www.nnc.or.jp/~ken