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 かかりつけ医通信    第62号   2004年1月28日発行
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    健康・医療のお役立ち情報・・・医療の現場から
 私達は、医療の現場で働く臨床医です。実際の診療やネット上から
 得た健康と医療の役に立つ情報を、市民の皆さんにお届けします。
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 あけましておめでとうございます。
 今年は申年です。「見ざる・聞かざる・言わざる」の我関せずの三猿の譬え
 が有名ですが、日光東照宮の三猿は幼少期の猿で「子供の頃は悪いことを
 見たり、聴いたり・言ったりしないで、素直なままに育ちなさい」と言う意味
 があるのだそうです。
 私たちは日常診療の場において、「よく診る・よく聴く・よく話す」を
 「かかりつけ医の三猿の譬え」として努力したいと思います。
 今年も、かかりつけ医通信を宜しくお願いします。
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▼目次▼
 1) 急性心筋梗塞と最新治療
 2) セーフテイネットとは
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1)  急性心筋梗塞と最新治療
 前回のかかりつけ医通信では「動脈硬化」についての新しい見解として
 クラミジアやホモシステインと動脈硬化について説明しました。
 今回は急性心筋梗塞とその最新治療について簡単に紹介します。
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○急性心筋梗塞(AMI)とは

 全身に酸素を送り出すポンプの働きをしている心臓は、身体の他の筋肉の約3
倍の酸素を必要とする特殊な筋肉(心筋)により動いており、この心筋には心臓
から大動脈が出るところから分岐する冠動脈(かんどうみゃく)により、新鮮な酸
素が常に供給されています。

 加齢に伴い冠動脈でも動脈硬化が進み、血管の内腔にコレステロールや細胞な
どがたまってプラークを形成します。これが破れて内容物が放出されると、血液
は固まって血栓をつくりますが、その結果、血管が完全に詰まると急性心筋梗塞
(AMI)になってしまうのです。死亡率は高く、突然死することもあります。

 冠動脈は、1)右冠動脈:右室や心室の下部を覆う、2)左冠動脈前下行枝:
左心室の前面を覆う、3)左冠動脈回旋枝:心室の裏側を覆う、に大別され、ど
の血管が詰まるかで、心筋梗塞を起こす部位も決まってきますし、合併症の予測
もできます。例えば3)だけが詰まる1枝病変よりも、左冠動脈の起始部で詰ま
り2)と3)が罹患する2枝病変では梗塞は広範囲となり、より重症となります。
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○AMIを含む心臓突然死はどんなときに起こるのでしょうか

 平成6年度の厚生省の突然死に関する研究では、就寝中がもっとも多く、次い
で入浴中、休養・休憩中、排便中となっています。 また発症を季節で見ると、
一般的には心疾患は冬季に多いと言われますが、AMIに関しては冬に発症が多
いとは限らないようです。どの季節でも、温度差が大きいと血圧の上昇や交感神
経の緊張を引き起こして血管や心臓に負担をかけますし、体内の血液を固まりや
すくする因子を増強します。また、高温や乾燥は血液の濃縮を起こして血液を流
れにくくします。これらの厳しい自然条件がAMIの発症を増加させると言われ
ています。

 心疾患発症の日内変動は季節とは異なり、時間との関係が明らかになって来
ました。血圧や脈拍数は午前6時頃から上昇増加します。この傾向は、高血圧
の人ほど顕著で、血圧の上昇と同様に交感神経活動も活発になり、血液を固ま
りやすくする因子の増強も起こります。これらの反応のピークは午前中にあり、
午後はやや弱まりますが、夕方に再び軽い増加・増強が見られると言われてい
ます。

 そしてAMI、労作性狭心症や不整脈、心臓突然死などの心疾患の発症ピ
ークも午前中にあることが分かってきました。 特に起床後数時間、午前6時か
ら11時はAMIの要注意時間帯だと言っても良いでしょう。
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○AMIの症状は

 典型的な症状は、突然起こる胸部の激痛です。「胸部全体が圧迫されるようだ」、
「胸部全体が締め付けられるようだ」、「焼け火箸を差し込まれたようだ」と表
現されることが多く、チクチクとかシクシクとか言う一部分の痛みではありませ
ん。胸痛は通常15分以上30分くらい続き、痛みが首や肩(主に左肩)に放散した
り、呼吸困難や冷や汗を伴うこともしばしばです。似たような胸痛でも狭心症の
場合は5〜15分程度で消失しますので、胸痛の持続時間がAMIの重要な目安に
なります。

 今までに無いような胸の痛みが続く場合には、まずAMIを疑う必要がありま
すが、高齢者のAMIでは胸痛を訴えない例もあり、息切れ、呼吸困難、意識障
害、心窩部痛、冷や汗なども注意して、できるだけ速やかに対応することが肝要
です。
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○AMIの診断

 典型的な症例では、症状と心筋壊死に基づく特徴ある心電図所見を認めれば診
断は比較的容易です。更に心臓超音波検査にて心筋の壁運動異常を確認すれば、
診断はより確実となり、発症して数時間以上経っていれば、血液検査でも異常を
確認できます。

 しかし、発症早期に来院された場合、心電図変化が明らかでなく診断に苦慮す
る場合もあり、少し時間をおいて心電図を取り直したり、心臓超音波検査での確
認が必要となります。近年、発症早期の異常を診断できる「トロポニンT」や
「H―FABP」などの血液検査も保険適応となり、私たちの外来でも役立って
います。

 一般的にAMIを強く疑えば、冠動脈造影検査を行い診断を確実にする為に、
速やかに循環器の専門施設に紹介します。同検査でAMIと診断すれば、同時に
治療も行えるからです。
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○AMIの死亡率は

 AMIによる死亡率は約30%で、その半数以上は発症から2時間以内に、また、
その2/3は病院到着前に亡くなるとされ、その多くは不整脈死であると言われ
ています。CCU(冠動脈疾患集中治療室)を持つ循環器専門施設での救命率は
およそ9割ですので、AMIの疑いがあるときは、一刻も早く循環器専門施設へ
搬送する必要があるのです。
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○AMIの最新の治療法:血栓溶解薬+風船療法+ステント

 冠動脈が完全に閉塞し、壊死に陥った心筋は再生しません。従ってAMI治療
の第一の目的は、詰まった冠動脈を早期に再開通させ、心筋壊死を最小限に食い
止めることにあります(再灌流療法)。対応は早ければ早いほどよく、AMIの
治療のゴールデンタイム(心臓のダメージを少なくすることができる時間)は、
6時間と言われています。それを過ぎても12時間以内であれば治療効果がありま
すので、出来るだけ早く循環器専門施設へ搬送することだと思います。

 再灌流療法には、詰まった血栓を血栓溶解薬(tPAなど)で溶かす方法と、
血管内に細い管(カテーテル)を入れて、詰まった部位を風船(バルーン)でふ
くらませる冠動脈形成術(PTCA)、別名、「風船療法」があります。

 血栓溶解薬の静脈注射による再開通率は50〜70%程度ですが、再閉塞しやすい
ことが知られています。この治療法は簡便ですが、出血性疾患、たとえば胃潰瘍
などがあると、止血していた血栓まで溶かす為、その使用には充分な注意が必要
です。

 PTCAの再開通成功率は約95%と高いのですが、心臓カテーテル室のある施
設でなければ行うことができません。また、この治療を行う医師の技量も成功率
に大きく影響します。近年、この治療を行う医師で構成されている学会で、独自
の実地認定試験なども行われるようになり、技量の問題も解決できる方向に進ん
でいます。
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最後に、多くの専門施設で行われている最新の検査・治療法の流れを紹介
しましょう。

 AMIで循環器専門医のいる病院に搬送されてきた患者さんは、到着すると直
ちに血栓溶解薬を静脈注射して、心臓カテーテル室に運ばれ、心筋梗塞の部位の
診断・確認と、血栓が溶けているかどうかを確認するため冠動脈の血管造影を行
います。閉塞部位が見つかると、そこをPTCAで再開通した後、その部位にス
テントというステンレス・スチールの金網の筒のような補強具を留置します。ス
テント治療は、PTCAだけでは再狭窄することが多いため、広く行われるよう
になった方法です。ステントはPTCAの際、約60〜70%で使用されています。
更に再閉塞を防ぐ為に抗血小板薬を1カ月ほど服用します。こうした治療が行わ
れるようになって、再狭窄率は低下し、急性心筋梗塞の治療成績は向上していま
す。
 ただし、血管をふさいでいる血栓の量が多い場合には、はがれ落ちた血栓が、
より細い末梢血管へ流れ、また詰まってしまう恐れがあるため、特殊なカテーテ
ルで血栓を吸引して取り除いてしまう治療法(血栓吸引療法)も、行われるよう
になり約2年前から実施施設も増えてきています。

 冠動脈の再開通に成功すれば、AMIの進展は止まり、壊死一歩手前の心筋
(心筋虚血部)はやがて正常に回復します。回復後、再開通しない場合に比べて
運動能力は高いことが期待されますし、入院期間も短縮できます。

 このように、冠動脈の再開通療法は非常に効果的ですが、前述しましたように
原則としてAMIの発症後6時間以内に治療しなければいけません。その為、で
きるだけ迅速な循環器専門施設への搬送が必要といえます。

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○参考サイト

急性心筋梗塞治療の最前線
http://www.jhf.or.jp/heartnews/hn32/hn32.html
急性心筋梗塞
http://ccu.wakayama-med.ac.jp/ippan/ami.html
心筋梗塞マーカー検査 15分で判定、高精度
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/saisin/sa382601.htm
「冬季の心疾患」
http://www.dango.ne.jp/asakamed/kenkou/ken10/ken10-2.htm
高血圧の人が特に注意の時間帯
http://www.pfizer.co.jp/contents/special/9709/0102.htm
突然死と心筋梗塞
http://www.jhf.or.jp/heartnews/hn21.htm
認定医制度については
http://www.jacct.com/seido/index.html
急性心筋梗塞に新治療法:
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/saisin/sa3c0201.htm
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2)セーフテイネットとは

セーフテイネットという言葉をいろんなところで聞くようになりました。
そこで今回セーフテイネットについて説明しますが、詳しい説明は下記URLの
岸和田市のホームページにあります。このホームページを参考にセーフティ
ネットについて解説します。
http://www.city.kishiwada.osaka.jp/hp/m/m108/plan/2_01.html

(1) セーフティネットとは
 セーフティネットは、もともとサーカスの空中ブランコや綱渡りなどの下に
張ってある安全網のことをいいます。またセーフティネットは普通に言えば、
社会保障制度ということにもなりますが、これには預金保険制度や生命保険制
度も含めることにもなるので、今回は医療のセーフティネットについて説明し
ます。
 わが国のセーフティネットは未成熟であると言われています。勿論生命保険
制度のように制度として十分成熟しているものもありますが、多くの制度は不
十分であると言って良いでしょう。不十分なものの代表には、失業保険制度、
生活保護制度などであり、年金、医療、介護も財源不足が深刻になっています
ので、多くの問題を抱えている事になります。

セーフティネットには、大きく分けて次の4つの目的が考えられています。
(1)万一の事故ないし災いを未然に防ぐか、たとえ発生してもその被害を最
  小にする。
(2)被害が生じた時の補償措置をあらかじめ用意しておく。
(3)セーフティ・ネットの存在によって、人は失敗を恐れない勇気のある行
  動が期待できる。
(4)将来確実に発生すると予想される事象に備えることもセーフティ・ネッ
  トに含める。

 セーフティネットがあることにり、人は安心して様々なチャレンジができる
のです。そしてチャレンジがうまくいった時には、何らかの社会的な成果が
上がることで社会に還元されるものでもあるのです。
 また、不幸にあった人の生活が保障されることで、犯罪に走る機会を減らし
たりするなど、社会の安定にも寄与するのです。
 このように、セーフティネットはその恩恵を受ける個人のためだけでなく、
社会にとっても大きな利益になるものだといえます。セーフティネットのない
社会というのは「1度の失敗さえ許されない社会」なのです。そのような社会
では誰もリスクのあることをしなくなるでしょう。頑張る人には、社会が安心
して頑張れるような環境を整えてあげるのがセーフティネットであると理解す
べきでしょう。
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(2) セーフティネットの弱点
 
 上の目的とは逆に、セーフティネットの弱点・負の効果も当然あります。
(1)セーフティ・ネットの存在が、逆にリスクを冒す行動を控えさせたり、
 かえって怠惰になることもある。
(2)制度の悪用(モラル・ハザード)を起こさせる要因になりうる。
(3)セーフティ・ネットの整備には、負担も含めてコストがかかる。
事などが考えられています。

 セーフティネットは、やむを得ず助力を必要とする人や地域のため、有効
に活用されるべきであって、制度そのものを意図して悪用されるようなこと
があってはなりません。例えば、自殺や保険金目的の殺人など意図的な死に
よって保険金を受領しようとする行動だとか、失業者が保険が給付される間
は真剣に就職活動をしないような行為などです。またいつも問題となります
が生活保護では、就労して収入を得ていることを隠して少しでも多くの保護
費を得ようとする行為もあります。
 このような行為は、モラル・ハザードといって、倫理の欠如や制度の悪用と
いう意味ですが、これらが蔓延するようなことになれば、正しいモラルを持つ
人に制度に対する不信感を抱かせたり、制度を健全に持続させることができな
くなります。
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(3) セーフティネットの公開
 いくらセーフティネットを張っていても、いつ、どんな時に、それを利用で
きるのかを知らないと何の意味もありません。
 固定観念によってサービスの受給を拒むような人には理解を促し、セーフティ
ネットの存在を知らない人へは、行政が積極的に情報公開をしていかなければ
なりません。情報公開そのものがセーフティネットとなることもありうるので
す。 
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(4) セーフティネットの形態
 セーフティネットを制度化し、提供する際には、様々な形態から、より効
果的な手段を選ぶ必要があります。現在の給付形態を分類すると次の4種が
あげられます。
ア 金銭給付
 各種補助金、手当、給付金、就学奨励金等が該当し、受給者が自由に使い方
 を選べますが、悪用の可能性もあります。
イ 現物給付
 医療器具の貸出、サービス拠点の提供等が該当しますが、必ずしも受給者に
 見合ったものであるとは限りません。
ウ 人的支援サービス等
 就職案内、職業訓練、カウンセリング、人的支援等が考えられますが、運営
 方法によっては低コストで提供が可能です。効果を高めるには受給者の自助
 努力が重要となります。
エ 拠点的施設サービス
 障害者施設や高齢者施設、児童施設等が該当しますが、各種施設をネットワ
ークで結び、地域の中で安心して暮らせるような体制を整備します。

 セーフティネットには、金銭給付以外にも、これらのような色んな形態が存
在するのですが、財政難の中でも、現物給付や人的支援サービス、拠点的施設
サービス等への政策的な転換を図ることで、セーフティネットを守っていく必
要があると考えられています。
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○医療にとってのセーフテイネットとは何か?

 たとえば社会保障といっても年金と、医療・福祉があるわけです。これは性
格が皆ちがいますし、金額ベースではおよそ年金:医療:介護=5:3:2で
す。年金は日々の糧ですから、確実に「毎日」の国民全員の問題です。
医療は緊急の問題ですから病気の方以外は関係がない。あくまで「非日常」
なものと考えられます。ここで、どちらが「社会保障」として国で支えるのが
相応しいのか考える必要があります。

 一般の国民は、普段は生活におわれていますので、不要不急の「病気」まで、
普段から準備するにはきついでしょう。かつ病気はいったんかかったら高額の
出費が必要です。国民皆保険の自己負担や、高額療養費還付制度、身体障害者
制度など、医療のセーフティネットで普通の病気はかなり保護されてはいます
が、保険適応のない治療選択など、重症の病気になれば現在でも家屋敷を売り
払うような大きな負担が必要となる可能性があります。
 海外での心臓移植などは、億を超える費用がかかり、医療費の支払いで生活
は崩壊します。募金に頼らざるを得ないのが現実ですが、募金が集まらねば
治療を受けることも出来ないのが現実です。こういうものこそ、社会保障で支
えるべきだと思いますが、今の医療制度では全てにセーフティネットは張られ
ていません。

 逆にいえば、「全員が関係する事柄」には薄いネットで自助努力をしていた
だく事も必要です。社会保障費の増額が抑えられ、むしろ削減されている現実
でお金がないというなら、セーフテイネットの意義が薄い「年金」は減らして
も良いのではないかと思います。自分の生活の糧は出来れば自分で賄って欲し
いしと思いますし、モラルハザードも起こり易いと思います。あくまで自助の
精神でゆくべきでだと思います。
このように、年金と医療、どちらが国で支える社会保障として相応しいかとい
うような議論もなりたちます。
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○セーフテイネットの構築にむけて

 過去の国民負担率の議論のなかで、医療は成長産業であることを強調するだ
けではだめで、自己負担をあげないということとペアでなければならないと考
えます。それでなければセーフテイネットにはなりません。
老後の安定が得られなければ、個人消費は伸びようがないのです。
また医療は成長産業であるから、市場原理を入れれば良いとはとはいきません。
医療に混合診療や株式会社など、各種市場原理を持ち込んでは、市場原理にの
っとり競争することになり、医療費は高騰し、患者さんの自己負担が増加して
セーフテイネットにならなくなります。
 コストは下げないといけないと思いますが、市場原理を導入すれば医療費は
高騰し患者負担は逆に急増します。それでは市場開放の補完としてのセーフテ
イネットにはならないのではないでしょうか。

 医療や介護は、市場経済から落ちた方をすくうネットです。社会的コストが
低く、人びとが安心して生活できる形にしないと機能しません。そうでないと
老後が不安な方は貯蓄に走り、個人消費が冷え込み、市場経済そのものがなり
たたなくなります。老後の資金のほうは、自分に必要な貯蓄額を自分で設定で
きますが、医療や介護はかならずしも全員が多額のサービスを必要とするわけ
ではありません。全員が直面するわけではないリスクに対しては、個人で準備
する必要性は薄いのでどうしても手薄となります。やはり公的資金による社会
保障制度の機能の意味は大変大きいものです。何より生活のあるいは老後の安
心感の確保のためです。
 今の論議では、社会保障は、抑制に目を向けるあまり、その無駄が強調され、
経済の「不採算部門」ないしは「捨てガネ」のようにあしらわれ、その積極的
な生活の安全という意義が評価されていません。保険給付を減らし、患者自己
負担を増やしたとしても、国民の実質的な負担の全体が軽減されるわけではあ
りません。
 このため、高齢社会への対応が後手に回り、国民に無用の不安を与える結果
になってしまっています。その有形無形の経済的損失は、はかり知れないので
はないでしょうか。
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○セーフティネットの財源

 財源については、社会保険料だけでは空洞化していくと思います。消費税と
の適切な組み合わせが必要です。しかし市場経済に対する効率的かつ維持可能
な補完装置を日本で保つには、やはり社会保障制度が有効であると思います。
これは特に医療と介護のような、現物サービス面でより強く言えるでしょう。
老後の資金のほうは、自分に必要な貯蓄額を自分で設定できますが、医療や
介護は確率的現象です。決して全員が多額のサービスを必要とするわけではあ
りません。前述しましたが全員が直面するわけではないリスクに対しては、や
はり社会保障制度の機能の意味は大変大きいし、何より安心感の確保ができま
す。
 国際社会で競争しつつ、万が一の不安に対処するために全員が貯蓄をしたら、
それこそ消費不足もいいところになります。年金のほうは万が一ではなく、
ほとんど全員が高齢者になる国ですから、基礎年金以外は私的な仕組みの活
用に移っていっても問題は少ないでしょう。しかし医療や介護は、長寿社会で
はますますリスクを分散するための強制的な制度の意義は重要です。

 もとより医療の効率化をはかるべきですが、医療費を抑制するだけではダメ
で、積極的にセーフテイネットを構築して、老後の安心感をはかり個人消費の
活性化を目指すべきだと考えます。
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参考サイト
医療は社会のセーフテイネットです
http://www.orth.or.jp/seisaku/syutyou/menu.html
http://www.orth.or.jp/seisaku/syutyou/safetynet.html
社会保障改革/弱者保護に安全ネット構築を 
http://www.sanin-chuo.co.jp/ronsetu/2001/08/05.html
セーフティーネットとしての社会保障
http://fischer.jinkan.kyoto-u.ac.jp/~adachi/KansaiMFPP/happyou/8-2hosomi.html
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【発行】「かかりつけ医通信」発行委員会
 当委員会は、趣旨に賛同した医師による、自発的な会です。
 他の既存の団体や会社に所属しているものではありません。
【編集】
(委員長)長島公之:長島整形外科(栃木県) 整形外科医
      http://www.docbj.com/
(委 員)五十音順
 安藤潔:荒川医院(東京都) 内科医
  http://www2u.biglobe.ne.jp/~andoh/
 外山 学:益田診療所(大阪府) 内科医
  http://www.toyamas.com/masuda/
 本田忠:本田整形外科クリニック(青森県) 整外外科医
  http://www.orth.or.jp/
 牧瀬洋一:牧瀬内科クリニック(鹿児島県) 内科医
  http://clinic.makise.or.jp/
 吉岡春紀:玖珂中央病院(山口県) 内科医
  http://www.urban.ne.jp/home/haruki3/index.html
 吉村研:吉村内科(和歌山県) 内科医
  http://www.nnc.or.jp/~ken
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