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 かかりつけ医通信    第61号   2003年12月22日発行
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    健康・医療のお役立ち情報・・・医療の現場から
 私達は、医療の現場で働く臨床医です。実際の診療やネット上から
 得た健康と医療の役に立つ情報を、市民の皆さんにお届けします。
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▼目次▼
 1) 動脈硬化についての新しい見解
   a.)クラミジアと動脈硬化
   b.)ホモシステインと動脈硬化
 2) 我々はどういう社会を作るのか
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今年も残すところわずかになりました。
ご購読ありがとうございます。
かかりつけ医通信も定期的な発行を目指していますが、思うように執筆できず、
不定期な発行で読者の皆様にご迷惑をおかけいたしています。今後も出来るだ
け、月1回の定期的な発行は続けて行きたいと思いますので、来年も宜しくお
願いします。
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1) 動脈硬化についての新しい見解

 人間は血管から老いるとよく言われます。動脈の老化、すなわち動脈硬化の
原因としては、危険因子として高血圧や糖尿病、高脂血症、喫煙、高尿酸血症、
肥満、ストレスなどが挙げられています。
その中でも、高脂血症(高コレステロール血症)は中心的な役割を演じています。
その主役は悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールです。LDL
コレステロールが酸化されると、異物を撃退する白血球のひとつのマクロファ
ージという細胞に取り込まれて、血管内壁に蓄積して動脈硬化巣ができていく
わけです。
 ところが心筋梗塞や脳梗塞の患者さんでは高コレステロール血症のない患者
さんも多く、その他にも危険因子があるのではないかと考えられるようになり
ました。その研究の結果、最近、動脈硬化の危険因子としてとして、「クラミ
ジアという細菌のよるもの」、「ホモシステインという物質の異常」などが発
見され、これらも動脈硬化促進の独立した危険因子として考えられるようにな
りました。またこれらは他の危険因子と相乗作用を示す可能性も指摘されてい
ます。

今回は動脈硬化の原因としてクラミジアとホモシステインについて、インター
ネットで得られた情報を中心に簡単に紹介したいと思います。
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a.)クラミジアと動脈硬化症

○クラミジアとは

 クラミジアは、最近性感染症の原因として良く知られるようになりましたの
でご存じの方も多いかも知れませんが、今回の動脈硬化には性感染症は関係あ
りません。
 人に感染するクラミジアには、性感染症の原因のむクラミジア・トラコマチ
ス、オウムやインコなどの鳥類からヒトに感染し、オウム病の原因となるオウ
ム病・クラミジアと、上気道炎や肺炎などの呼吸器感染症を起こす肺炎クラミ
ジアの3種類がありますが、動脈硬化に関係するのはそのうち主に呼吸器感染
症を引き起こす肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae)です。
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○肺炎クラミジアの感染症とは

 肺炎クラミジアの感染そのものは一部の重症化例をのぞけば、日頃はあまり
問題とはなりません。
感染後2〜4週間の潜伏期間の後、乾性の咳嗽、発熱、倦怠感、筋肉痛などの
症状で発症します。発熱は軽症のことが多く、症状も一般的には軽度です。
飛沫によって友人や家族の間でゆっくり広がり小流行をくりかえします。
咳が長引いて普通の風邪とは少し違うような時には肺炎クラミジアを疑って検
査をすることがあります。
診断のポイントは、血清クラミジア抗体価の上昇ですが、再感染では抗体価の
上昇は見られないこともあるようです。
治療は通常クラミジア感染症にはテトラサイクリン薬が第1選択薬ですが、
ニューマクロライド薬でも好結果を得られています。
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○クラミジアと動脈硬化症の研究のはじまり

 クラミジアと動脈硬化症の関連についての研究は、1988年フィンランドの
サイック博士らが、肺炎クラミジアに対する抗体保有者の方が抗体陰性者より
心筋梗塞になりやすいことに気づいたことにはじまるといわれいます。
その後同様の血清疫学的な検討は日本を含め世界中で数多く行われ、同じよう
な結果が得られました。そして人種や地域が異なってもそのほとんどで肺炎ク
ラミジアに対する抗体保有者は2〜4倍程度心筋梗塞や脳卒中になりやすいこと
が報告されています。
1999年、ワシントン大学のロス博士が「動脈硬化の50%は高脂血症が原因で
はない」、つまりコレステロール以外にも動脈硬化の大きな要因が存在すると
いう衝撃的な発表を行いました。それを機に動脈硬化とクラミジアが注目され
るようになったのですが、それを裏付けるように90年代には、クラミジアが
生きた状態で人間の血管の動脈硬化部分から相次いで見つかり、動脈硬化との
関連が確実視されてきたのです。
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○クラミジアによる動脈硬化の成り立ち

 メカニズムについてはまだ未解明の部分も多いようですが、疲れやストレス
がたまり、免疫力が低下した時に「肺炎クラミジア」に感染すると、クラミジ
アは感染部から肺を経由して血管にまで忍び込みます。そして血管壁の劣化し
た部分から内部へと侵入し、周辺にたまったコレステロールを集めて血管壁を
厚く盛り上げ、血管を狭くしてしまうというのです。
感染が一度で済めばすぐに血管が詰まる危険性は低いのですが、肺炎クラミジ
アは季節に関係なく感染してしまうため、再感染を繰り返し血管内へ侵入する
たびに、血管壁は膨れ上がり、やがては破れてしまいます。すると、その傷を
埋めようと血小板が集まって血栓を作り、血管が詰まってしまうのです。

 このように研究者の間では「肺炎クラミジア」が動脈硬化を進行させること
はほぼ間違いないと考えられています。
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○「肺炎クラミジア」の感染率

 1998年にワシントン大学が発表した疫学調査では、世界各国で半数以上の
人々が、過去に一度でも肺炎クラミジアに感染していたことが判明しています。
日本でも、国立感染症研究所の岸本博士や川崎医科大学の尾内博士の調査によ
って、その調査対象の50%以上が、かつて「肺炎クラミジア」に感染したこと
があるという事実が明らかになりました。また、成人ではクラミジアの抗体保
有率はもっと高いとの報告もあるようです。
つまり「肺炎クラミジア」の蔓延はすでに世界規模で進み、予想をはるかに上
回る人々がこの細菌によって動脈硬化を引き起こす危険にさらされていると言
ってもいい状態なのです。
成人の感染率が50%を超えるということは、逆に言えば多くの人が感染してい
るので動脈硬化との因果関係は否定されることにもなるのですが、ヘリコバク
タピロリと胃潰瘍の関係と同じく、多くの人が感染しても、特殊な状態ではそ
の菌により病気が発症したり、悪化したりすると考えていいでしょう。
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○肺炎クラミジアから身を守るためには

「肺炎クラミジア」による動脈硬化から身を守るため、日常生活の中で次のよう
な点に注意すべきだといわれています。
まず、人の免疫能力が正常に機能すれば、「肺炎クラミジア」の攻撃をブロック
できる可能性は高いため、生活習慣を整え、手洗いやうがいを励行し、充分な
体力を維持するなど、免疫力を低下させないように心がけることです。また、
肺炎クラミジアが血管に侵入した場合、血管壁にコレステロールが多くたまって
いるほど血管は狭くなるので、従来からの高コレステロール血症は改善すべきで
バランスの良い食生活を送るように気を配ることが大切であるといわれています。

さらに、「肺炎クラミジア」による動脈硬化の進行を、抗生物質によって抑制で
きることも突き止められています。
アメリカでは、4000人の動脈硬化患者に抗生物質を与え、経過を観察する大規
模な臨床プロジェクトを実施されています。これらの研究が実れば、「肺炎クラ
ミジア」による動脈硬化を効果的に抑制できる抗生物質の開発が可能となるかも
しれません。また「肺炎クラミジア」に有効なDNAワクチンの研究も進められ
ています。ワクチン開発が成功すれば、「肺炎クラミジア」の感染を幼児期から
確実に防ぐことができるため、将来的には動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞など
の疾患も減るかも知れません。

ただ動脈硬化の予防のために長期間抗生物質を内服するという発想は、副作用・
耐性・医療費等から考えて日本ではまだすぐに行える治験ではないと思います。
しかし症例を選んで治療的に使う時期が来るのかも知れません。

他にもまだ、クラミジア抗体と局所クラミジアの存在、動脈硬化病巣でのクラミ
ジアの検出頻度、抗生剤投与の結果(動脈硬化進展、急性冠症候群など)などで
結果にばらつきが見られ、直接的な関係を疑問視する報告もありますので、すぐ
に治療法として確立されるものではありませんが、一見どうも関係なさそうな
クラミジアと動脈硬化症に大きな関心が寄せられていますし、今後の研究の成果
に目が離せません。

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○関連サイト

病変部に“定住”肺炎クラミジア
http://www.med-apple.com/news/std/std2002.04_5/std05.27.02.html
驚愕の事実! 動脈硬化が人から人へ感染する!?
http://www.ntv.co.jp/FERC/research/20021208/f1502.html
クラミジアと動脈硬化症
http://www.npo-bmsa.org/wf001.shtml
身近な肺炎クラミジア
http://www.baobab.or.jp/~oring/c_chlpn.shtml
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b.)ホモシステインと動脈硬化

 最近は、健康ブームでテレビなどでも時々ホモシステインについての番組が放
映さるのでこの名前を聞いたことがある方も多いでしょう。
ホモシステインが新たな動脈硬化性疾患の危険因子として注目されているのです。
心筋梗塞の発作を起こした人の2-3割程度にしか高コレステロール血症がみられ
ず、コレステロール以外にも動脈硬化の代謝性因子があるのではないかと長い間
考えられてきました。その一つが前述したクラミジアによる炎症ですし、もう一
つ最近注目されているのが血中ホモシステインの増加です。

 1984年に高ホモシステイン血症が脳血管障害の危険因子であると報告されて
以来注目を集め,数多くの動脈硬化と関係する研究成果が発表されていますが、
特に脳梗塞,心筋梗塞,閉塞性動脈硬化症.深部静脈血栓症と血中ホモシステイ
ン濃度とが有意の関係を有し,コレステロールや高血圧などと同様に独立した危
険因子であることが統計学的に証明されています。

では、ホモシステインとはいったいどのような物質なのでしょう?
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○ホモシステインとは?

 体に重要な蛋白質は肝臓で種々のアミノ酸を材料として合成されますが、蛋白
質構成アミノ酸であるメチオニンの代謝中に硫黄をもったアミノ酸であるホモシ
ステインが生成されます。 これは一時的に出来る物質で肝臓でビタミンB6、
B12、葉酸の3種類のB群ビタミンの働きで、元のメチオニンに代謝されます。
その代謝の過程でB群ビタミンが不足するとホモシステインからシステインへの
代謝が低下し、ホモシステインが余り、血中ホモシステイン値が上昇すると言わ
れています。

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○ホモシステインが動脈硬化をひき起こすメカニズム

 高濃度の血中ホモシステインは、以下のさまざまな作用により動脈硬化を引き
起こすと考えられています。
・LDL-コレステロールに作用し、血管壁への沈着を促進する。
・血管平滑筋細胞の増殖を刺激する。また、コラーゲン線維の過剰な合成を引き
 起こす。
・酸素ラジカルの過剰生産を誘導し、血管の障害、細胞間物質の沈着、カルシウ
 ムの沈着、血栓症などを引き起こす。
血中のホモシステイン値は、ビタミンB6、B12、葉酸の欠乏によって上昇し、
高血圧や高脂血症、肥満などとは独立した動脈硬化の危険因子とされたています。
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○ホモシステインを増加させないためには

 肉や魚などのたんぱく質を食べると、体の中でそのたんぱく質は硫黄を含むアミ
ノ酸に分解されます。これらのアミノ酸が代謝される過程でホモシステインが生ま
れるのです。 そしてホモシステインを増加させないためには、ビタミンB6、
B12、葉酸を充分にとることが必要です。 米ハーバード大学公衆衛生学のリム博
士は、葉酸やビタミンB6を摂取している人は、両ビタミンが少ない人よりも、心
筋梗塞などの冠動脈疾患リスクが半分に減っているとの研究結果を発表しました。

 では、どれくらい摂取すればよいのでしょう。
 栄養所要量が発表されており、これらのビタミンは食事をバランスよくとれば
不足することはないと思いますが、それでも摂取量が不足するようならばビタミ
ン剤などで補えばよいでしょう。(下記に各ビタミンの概要と所要量を示します)

ホモシステインは、多くの研究で動脈硬化や心筋梗塞などの危険因子としても注
目されていますが、動脈硬化だけではなくアルツハイマー病やうつ病などとの関
連も注目されています。
世界各地で葉酸,ビタミンB6,B12のサプリメントが動脈硬化性合併症を予防
できるかどうかの実証研究が数多く大観模になされていますし、最近では、海外
で冠動脈形成術後の患者さんををプラセボー群と実薬群とに分けて1年間経過観
察したところ、実薬群で血中ホモシステインは低下し,冠動脈の再狭窄は危険度
明らかに低くなり、死亡率や心筋梗塞の発症率も低下傾向を示しているとの報告
もあります。しかし、これだけではまだホモシステイン低下療法の効果について
確証が得られているとはいい難いく、これからの課題だと思います。
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○日本人の栄養所要量(ビタミン)  下記から引用
http://allabout.co.jp/fashion/diet/closeup/CU20030530A/index3.htm

■ビタミンB6
 栄養所要量 成人男性1.6mg 成人女性1.2mg

たんぱく質の代謝にかかわるビタミンで、欠乏すると皮膚炎や口内炎、貧血、
脂肪肝になります。たんぱく質の摂取量が増えると必要量も増えるという特
徴があるため、例えば低インシュリンダイエットやおかずだけダイエットな
ど肉の摂取量が増える傾向にあるダイエットに挑戦する方は特に摂取量に注
意してください。長期の大量摂取でまれに神経障害が起こることもあるため、
サプリメントを常用している方は許容上限摂取量(100mg)にも注意が必要で
す。

■葉酸 
 栄養所要量 成人男性200μg、成人女性180μg

他のビタミンと協力して赤血球、たんぱく質、遺伝子の合成などに関与する
ビタミンです。欠乏すると口内炎や貧血、不眠などになりやすく、その他細
胞の合成に問題を生じます。通常の食生活では不足することはないといわれ
ていますが、食事量を制限したダイエットでは不足することも考えられます。
極端な過剰症は知られていませんが、サプリメントで摂取する場合は念のた
め許容上限摂取量(1000μg)に注意しましょう。

■ビタミンB12 
 栄養所要量 成人2.4μg

葉酸と協力して造血にかかわるビタミンで、欠乏すると赤血球が減ったり、
異常に巨大な赤血球ができて悪性貧血になることが知られています。しかし
ながら、所要量をみても分かるようにその必要量はきわめて少なく、卵や
乳製品も食べない厳格な菜食主義者でもない限り(植物中にビタミンB12
は存在しませんので)不足することは考えにくいビタミンです。逆に言え
ば厳格な菜食主義のベジタリアンダイエットを行う場合はサプリメントで
補充する必要があります。過剰症は知られていません。
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○ホモシステインの測定

「ホモシステイン」のレベルは血液検査で判断できます。
測定法は総ホモシステインとしてHPLC法で測定します。
参考基準値は報告により少しずつ基準値が異なりますが、性差があり男性
の方が少し高いようです。
  男性 7.9〜19.9μmol/L
  女性 4.5〜15.3μmol/L
とされ、加齢により高値になります。
保険適応の検査で検査料は500点(5000円)です。

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○関連サイト
札幌厚生病院 循環器科 ホモシステインと循環器病
http://www.gik.gr.jp/~skj/lifestyle/homocysteine.php3
動脈硬化を起こすホモシステイン
http://www.zenyaku.co.jp/k-1ban/file/homocys/
ホモシステイン
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/kenkou/20010923sq41.htm
ホモシステイン
http://plaza.harmonix.ne.jp/~lifeplus/text2/homo.html
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2) 我々はどういう社会を作るのか

●社会のモデル
○モデルA
 極めて高度な工業化社会となることを想定しています。他のシナリオより経
済成長がすべての時期で上回ります。現在の社会の発展系。しかし高齢少子化
社会での永続的な右肩上がりの成長は当然不可能です。

○モデルB
 生活のペースを今より少しスローダウンし、得られた時間で自ら家の手入れ
や家庭菜園などの園芸を行ったり、ものを修理しつつ大事に使う生産的消費者
への変化が求められます。また、地域でのNGO/NPO活動への参加や、朝
市などによる地産地消といった小さな経済で充足感を得る社会になります。
他のシナリオより経済成長がすべての時期で下回ります。

○モデルC
 環境効率性の高い社会で産業の高次化が進むイメージです。環境産業の発展
により経済成長もしながら、そのような産業が供給する環境に配慮した製品や
サービスにより暮らしの面でも環境負荷の低減が進むという社会です。
経済成長は他のシナリオの中間となります。
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 将来の我が国のはこの三つの社会像のどれがふさわしいでしょうか。いずれ
の社会においても、高齢化ゆえ、病気になる方は増加します。また医療は進化
しつづけることになるわけです。医療はコストをかければかけるだけ、質の向
上が果たされます。
 医療を含めた、限られた社会資源の配分をどの様にすればよいのでしょうか、
社会的弱者に対する福祉の在り方、国の予算の在り方、社会のありようまで問
われることになります。どういう社会モデルが望ましいのか、考える必要があ
ると思われます。
 しかし、医療・福祉の議論に前提条件として、「お金がない」と言う意見か
らでる論は発展性がないものとおもいます。展望がないと言うことかと思いま
す。
 お金がない=混合診療容認=任意保険導入。
単純明快な論となりますが、ここには弱者保護の視点が欠けることになります。

1)社会の活力を維持する
2)落ちこぼれる方の安心をきちんとする:セーフテイネットの構築
が肝要かと思われます。
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○医療と市場原理の導入について;医療特区について

 聖域無き構造改革を旗印とする小泉内閣は、来るべき高齢化社会に向け、マ
スコミを総動員しての医療費削減を主張しています。しかし、既に何年も前か
ら国庫負担から支出される社会保障費の割合は、どんどん減らされており、こ
の10年間では10兆円もの額が削られ、その代わりに患者さんの負担は年々増
やされています。因みに、先進国では社会保障費は公共事業費の3〜4倍です
が、我が国では2/5に過ぎません。具体的には公共事業費は85兆円。公的年
金は40兆円、医療費は30兆円。ちなみにパチンコ産業も30兆円です。この公
共事業費は世界最高レベルです。サミット6カ国の公共事業費を合わせた額よ
りもまだ多いのです。
国家予算の配分を欧米と比較すれば、日本は低負担で低福祉の国と言えます。
発展途上国なみである。欧米並みに日本の公共事業費を半分に減らせば、医療
は全額無料となります。一方、政府の医療制度改革という美名の元に、より医
療費の削減を目指しております。

 また経済特区に合わせてむりやり、医療に市場原理を持ち込もうと画策して
おります。先日行われたシンポジウムでは、政府あるいは総合規制改革委員会
の委員の方々の意見の多くは、「患者を前にした医師の気持ちもわかるが、ど
うやって金をつくるのか。ない袖は振れません。」と言う意見に尽きると思わ
れます。財源がないから混合診療を導入する。医療は基本部分だけにする。
あとはお金のかかる医療は任意保険とする。国にお金がないから、あとは国民
各位の自己責任の原則で行いなさい。任意保険に入れない方は医療は受けれな
いといっているに等しいわけです。高齢化少子化社会の医療の在り方。医療は
病気により、社会から落ちこぼれた方々のセーフテイネットであるということ
をどう考えるのか、医療の財源を確保しなければ、医療の質は維持できないこ
ともあきらかです。質の向上と同時に医療の効率化も行わなければいけません。

 今の日本の医療制度は、(1)国民皆保険制度、(2)診療報酬の国家統制
制度、(3)混合診療の禁止のおかげ(せい)で、医療費を、政府がコントロ
ールできるシステムだと思います。しかし、このような株式会社の参入、混合
診療の解禁など、市場原理の導入を行えば、自由診療となり、医療費の、政府
のコントロールが効かなくなるので、結局、国の負担は減っても、総医療費は
増大し、ツケは国民(特に、収入が少ない層)にまわることになるとも言えま
す。
また医療に市場原理を導入して、良貨が悪貨を駆逐することが期待されるわけ
ですが、では医療というのは、競争原理がなりたつのでしょうか?情報の非対
称がなくならない限り、市場原理はなりたたちません。
悪貨が良貨を駆逐する事態にならないか不安です?

 市場原理が導入されて起こるのは弱者保護ではなくて、自己責任の原則の徹
底である。特権医療の導入か、市民権のフリーアクセス権かが問われておりま
す。
 従っていずれの社会を望むにしろ弱者保護であるセーフテイネットを作って
おかなくて良いのかということが問われていると思われます。
 セーフテイネットについては、また次号ででも考えてみたいと思います。

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おりますので、事前の承諾なしにメルマガに掲載させていただく場合がござい
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の旨御明記願います。
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 吉村研:吉村内科(和歌山県) 内科医
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