━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  かかりつけ医通信    第67号   2004年5月2日発行 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━     健康・医療のお役立ち情報・・・医療の現場から  私達は、医療の現場で働く臨床医です。実際の診療やネット上から  得た健康と医療の役に立つ情報を、市民の皆さんにお届けします。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼目次▼ 1) パニック障害について 2) 最後のセーフティネット・生活保護制度について ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 1) パニック障害について ○ はじめに  読者の皆さんには「パニック障害」という言葉を聞いたことのある方も多い と思います。インターネットで検索したら30,000件以上のヒットがあります。  我が国では、パニック障害は、かっては内科領域では「自律神経失調症」や 「心臓神経症」、精神科領域では「不安神経症」などの病名で取りあつかわれ ていました。1980年米国精神医学会で「病名を『パニック障害』に統一する」 と、世界的な取り決めが行なわれたため、我が国でもこれらの疾病の認知が次 第に進みつつあるのが現状といえます。しかし、もうすでに25年が経過してい る事を考えると、パニック障害という診断名は、臨床の現場ではまだ充分に使 われていません。  その原因には日本では、まだ「パニック障害」という概念が十分に認識され ていないことと、精神神経科以外の臨床医は「パニック障害」という診断名を 使うことが少ないからのようです。そして診断名は何になったとしても、その 本質や治療方針は同じなので、精神神経科の専門医以外は、この「パニック障 害」という診断名をあえて使いたがらないのかも知れません。  今回はこの「パニック障害」について少し詳しく説明したいと思います。 ------------------------------------------------------------- ○ パニック障害の頻度  パニック障害は100人に1人ぐらいの割合で起こると言われている病気です。 欧米諸国では男性1人に対し女性が2人以上の割合で発症するといわれていま すが、日本では男女ほぼ同じくらいの割合で発症しているようです。 発症年齢は男性では25歳から30歳位にピ−クがあり、女性では35歳前後の 発病が最も多くみられると言われています。 自律神経失調症,心臓神経症,神経循環無力症,過換気症候群などとされてい るケースにもパニック障害例が多く含まれていると思います。 -------------------------------------------------------------- ○ パニック障害を起こしやすいタイプ  パニック障害は、前述しましたように、かっては「不安神経症」の診断で一括 されていました。現在、厳密には不安神経症とパニック障害とは別の病気とされ ていますが、同じ名前でくくられていたことからも分かるように、パニック障害 を起こしやすい人は、総じて「いつも何かをしていないと、気が落ち着かない」 タイプの人が多いといわれます。  また、「自己主張が苦手で依存的な性格」や、「社会不安が強く、他人からの 否定的な評価を怖れる」傾向が強いとも指摘されています。このように言うと、 どこか“ひ弱”で“内向き”な性格という印象を持たれるかもしれませんが、現 実には仕事熱心で、社会的・経済的に成功している人たちもけっして少なくあり ません。 --------------------------------------------------------------- ○ パニック障害の原因  パニック障害の原因については、まだ解明されていないことも多く、詳細には 分かっていませんが、ノルアドレナリン、セロトニンおよびGABAという脳内神 経伝達物質が関連しているといわれています。何らかの原因によりノルアドレナ リン神経系が過剰興奮した際、パニック発作が誘発されるといわれています。ま たセロトニンやGABAといった神経伝達物質がこれらのノルアドレナリン神経系 の調節を行っているともいわれており、すなわちパニック障害は脳内の神経伝達 物質のバランスに変調をきたしている状態といえます。  このようにパニック発作の原因は脳内の変化にあるため、内科などで心臓や呼 吸器の検査をしても異常はみつからないのです。 -------------------------------------------------------------- ○ パニック発作の症状と診断  パニック発作は突然始まり、急速にピークに達して、しかも持続時間が短く、 少なくとも1時間以内(多くは10分以内)に治まるのが特徴とされています。  患者は何が起こったかもわからず、もしかしたら心臓発作か呼吸困難に陥り、 このまま死んでしまうのではないかという恐怖に襲われ、救急車で病院へ運ば れる例もしばしばみられます。しかし、病院に到着した頃には発作のピークは 過ぎ去り、潮が引くように、激しい発作症状はみられなくなっています。  病院では色んな検査を受けますが、結局なにも異常はみられません。 多くの場合、パニック発作は繰り返し起こります。そのため、また発作が起こ るのではないかと恐れ、発作によって大変な事態を招くのではないかと心配し、 発作を恐れるあまり日常生活が大きく制約されることもあります。  パニック発作の症状としては下記のようなものがあり、この13の症状のうち、 4つ以上の症状が同時に起こる場合にパニック発作、3つ以下の場合は「症状限 定発作」と診断することになっています。  1.心臓がどきどきする、または心拍数が増加する  2.汗をかく  3.体や手足の震え  4.呼吸が速くなる、息苦しい  5.息がつまる  6.胸の痛みまたは不快感  7.吐き気、腹部のいやな感じ  8.めまい、不安定感、頭が軽くなる、ふらつき  9.非現実感、自分が自分でない感じ  10.軌道を逸してしまう、狂ってしまうのではないかと感じる  11.死ぬのではないかと恐れる  12.しびれやうずき感   13.寒気またはほてり -------------------------------------------------------------- ○ パニック障害と間違えやすい病気や症状  最初に述べたように、パニック障害では事前に予期することのできないさま ざまな症状が起こります。しかし、身体に出る症状のなかには、別の病気が原 因で起こっている可能性もたくさんあります。そこで診断時には、その症状が パニック障害に特有なものなのか、それとも別の病気に伴う症状なのかが慎重 に検査されます。むしろこれらの鑑別診断で異常がない時にパニック障害と診 断する事の方が多いのではないでしょうか。 以下、区別を要するおもな症状を挙げておきます。 1.動悸・頻脈を主に訴える場合  パニック障害では最も多くみられる症状ですが、このような症状は不整脈そ  の他の循環器の病気によって起こるものもあります。その見極めには心電図  検査が必要です。  このような症状は、甲状腺機能に異常(亢進症または低下症)があるときに  も起こります。甲状腺機能の異常が疑われる場合は、心電図検査とともに甲  状腺ホルモン値の異常が調べます。また、糖尿病の患者さんが低血糖状態に  おちいったときや、貧血でも、しばしば動悸や頻脈が生じることがあります。 2.胸痛の訴え  狭心症や心筋梗塞などの虚血性心臓病でも、よく起こる症状です。そして、  パニック障害の場合も胸痛はありますが、一番不安になるのが心臓の病気で  死んでしまうのではないかという不安感です。パニック障害では誘因もなく  安静時に起こることが多いのですが、心臓病の胸痛発作は、労作時に起こり   やすいのが特徴です。やはり、心電図検査が必要です。また狭心症や心筋梗  塞は普通は動脈硬化の進んでいない若年者には起こらない事も鑑別になりま   す。 3.息苦しさ・窒息感の訴え  気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(肺気腫など)その他の呼吸器疾患でもよく  起こる症状です。なお、慢性閉塞性肺疾患の患者さんの場合は、このような  呼吸発作とパニック障害を伴う頻度が高いと報告されています。  その他に過呼吸症候群といわれる呼吸困難発作はパニック障害との鑑別が  難しい病状を示します、これはストレスなどの原因で呼吸過多になり、頭痛  やめまい、手の指先や口のまわりのしびれ、呼吸困難、失神など、さまざま  な症状を起こすものです。  発作の原因は、呼吸が速く浅くなって、空気を吸い込みすぎる状態になり、  血液中の二酸化炭素が少なくなって起こります。 4.めまいの訴え  めまい、気が遠くなる感じ、吐き気、運動失調などはメニエール病のような  前庭機能障害でも生じます。パニック障害によるめまいは良性の(治りやすい)  めまいですが、前庭機能の障害によって起こるめまいの場合は、耳鼻科専門医  による治療が必要です。 ------------------------------------------------------------ ○ パニック障害の治療  パニック障害の治療目標は、まずできるだけ早く発作をなくし、さらに激し い発作だけでなく、小さな発作や残遺症状、予期不安、広場恐怖、さらには併 発しているうつ病が改善するまで、きちんと薬でコントロールすることです。  治療は、抗不安薬、抗うつ薬を用いた薬物療法とカウンセリングが主体とな り、その他に行動療法、認知療法などが用いられる事もあります。  パニック障害の治療に用いられる薬剤には抗不安薬、三環系抗うつ薬、など が使われていましたが最近はSSRI*と言われる薬物が主に使われるようになっ て来ました。これらの薬剤は、それぞれ症状に合わせて最も適したものが選択 されます。  治療は長期にわたりますので、長期投与における安全性と有効性が確立した 薬剤、さらに予期不安など二次的症状を改善する効果のある薬剤を選択するこ とがポイントだと言われています。 【*SSRIとは】  セロトニンという神経伝達物質の神経細胞への再取り込みを阻害することに よってうつ病の症状を抑える薬剤ですが、パニック障害に対しても高い効果が 認められています。SSRIには我が国ではパロキセチン(パキシル)とフルボキ サミン(日本ではデプロメールとルボックス)という2種類があり、いずれも 副作用が少ないため、パニック障害には第一選択薬として利用されていますの で、かかりつけ医とよく相談してください。  この薬剤の妊婦さんに対する安全性だけは、まだ十分に確かめられておらず、 また乳汁への移行が認められいるところから、服用中は原則として赤ちゃんへ の授乳は控えなければらないとされています。また、勝手に服用を中断した場 合は、離脱症状(めまい、不安感、頭痛など)が出ることもあるので、処方ど おり服用することが大切だと言われています。 --------------------------------------------------------- ○ パニック障害の患者さんに対しての「まわり」の対応  1.してあげられること   ・できる限り普通の人と同じようにつきあう   ・批判したり非難したりしない   ・うつは病気であり苦痛の大きいことを教える   ・患者の真面目な努力を讃える   ・親切な言葉をかけほめる   ・好意を示す   ・うつ患者に関心を示し、尊敬し、大切にしている態度を示す  2.してはいけないこと   ・うつ患者の状態を非難する   ・批評する、不愉快な話をする、やりこめる、また非難を口にする   ・自信を失うようなことを言ったり、したりする --------------------------------------------------------- ○ おわりに  パニック障害の大部分は薬の治療が必要です。  「検査で異常がない→気持ちの問題である→薬に頼るべきではない」と考え がちですが、これは間違っています。薬を使わずにすめばその方がいい、とい うのは一般的には言えることですが、パニック発作で苦しんでいる場合、まず は薬が効くという体験をすることが回復の第一歩だと言われています。そして 薬を持っていれば実際にはのまなくても安心というのが次の段階なのです。  パニック障害は基本的には治る病気ですが、経過は様々です。治ったと思っ た矢先にパニック発作が起きることもあります。しかし発作そのものに危険は ないのですから、あせらずに治療を続けることです。本人をあせらせるような ことも禁物です。 ----------------------------------------------------------- ○ 参考サイト パニック障害の参考サイトはたくさんあります。どれも分かりやすく紹介され ていますので、詳しくは下記サイトなどを参考にしてください。 パニック障害教室 http://www.utu-net.com/panicr/ パニック障害Q&A http://www.utu-net.com/panicr/qa/index.html パニック障害プラザ http://www.fuanclinic.com/p_plaza/menu_pp.htm PDの基礎知識とパニックの出現 http://www.os.rim.or.jp/~poto/main/phtm/kiso.html パニック障害とはどんな病気か http://www.myclinic.ne.jp/imobile/contents/medicalinfo/top/mental_home/03_dec/topix.html パニック障害 http://psmut.umin.ac.jp/panic.htm パニック障害について http://felice.where-i.net/panic.htm 過呼吸症候群 http://www.med.or.jp/forest/check/kakokyu/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2) 最後のセーフティネット・生活保護制度について ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  かかりつけ医通信第62号で「セーフテイネット」について紹介しました。 今回は、社会保障の「最後のセーフティネット」と呼ばれる生活保護制度 ついて考えてみました。 ○ 生活保護制度とは  わが国の憲法第25条には「すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活 を営む権利を有する。国はすべての生活部面において社会福祉、社会保障およ び公衆衛生の向上および増進に努めなければならない」と規定され、一般には 国民の生存権の保障ともいわれています。  また生活保護制度は、生活保護法により具体化され、自らの資産や能力その 他のあらゆるものを活用してもなお生活が維持できなくなった人(世帯)に対 して、国の責任において「健康で文化的な最低限度の生活」のために必要な扶 助等を保障し、併せて自立を助長することをその目的としています。  このように最低限の暮らしを支える「最後のセーフティーネット」と言われ ながら、この制度にも多くの問題点が指摘されており、厚生労働省は約半世紀 ぶりに、抜本的な改革に乗り出しました。また最近この制度の運用についても 保護者重視の判決がありました。生活保護制度の全てを語ることは出来ません が、今回は生活保護制度の実情と問題点について、主に医療制度との関連の問 題について考えてみました。 ------------------------------------------------------------ ○ 生活保護制度(生活保護法)の要点  前述したとおり、生活保護制度は自らの資産や能力その他のあらゆるものを 活用してもなお生活を維持できなくなった人(世帯)に対して、その状況に応 じて必要な扶助等を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、併せて自 立を助長することがその目的です。 生活保護制度の概要をまとめると次のよう になります。 (1)自らのあらゆる資産の活用  生活保護を受けるためには、自己のあらゆる資産や能力を最低限度の生活を 維持するために活用しても最低限度の生活が維持できないことが求められるこ とになります。従って、生活に必要な宅地・住宅、田畑や山林および事業用品、 生活用品等の保有は必要最低限に制限されます。ただし、保有できる財産の程 度や範囲は、世帯の自立助長などの観点から検討されることになっています。   (2)能力の活用  実際に「労働の能力」を有するにもかかわらず働く意思のない場合は、能力 の活用をしていないことになり、保護の要件に欠けるものとされます。   (3)世帯単位の原則  生活困窮の状態は、生計を同一にしている世帯全体に及ぶ現象であることか ら保護の認定の基準は、原則として世帯単位となっています。  生活保護はこのような「国で定める最低生活費を下回る場合に、足りない部 分について保障する」制度なのです。仕事の給与、年金、各種福祉手当、仕送 などを合計して、なお最低生活費に満たない場合に、その足りない部分がお金 (保護費)として支給されます。 生活保護法は昭和25年5月に制定されていますが、その全文は下記にあります。  http://www.jca.ax.apc.org/nojukusha/general/law/seihohou/index.html --------------------------------------------------------------- ○ 生活保護の種類(8種類の扶助)   生活保護は、いろんな扶助制度ですが、つぎの8種類の扶助があり、国の定 めた基準により世帯の必要に応じて受けることができます。  また、他に各種の加算もあり生活扶助に加えて計算されます。  生活扶助・・・食べるもの、着るもの、光熱水費など日常のくらしの費用  住宅扶助・・・家賃、地代など  教育扶助・・・義務教育に必要な費用(給食代、学級費を含む)  介護扶助・・・介護を受けるための費用のうち、介護保険から支給されない分。  医療扶助・・・ケガや病気の治療をするための費用         (通院費、コルセット、眼鏡、看護料を含む)  出産扶助・・・お産をするための費用  生業扶助・・・自立のために技能を身につけるための費用  葬祭扶助・・・葬式の費用 この扶助の内、主なものは医療扶助と生活扶助です。 その内訳は後述しますが生活扶助は、健康で文化的な生活水準を維持することが できる最低限度の生活を保障するもので、扶助の基準は、厚生労働大臣が設定す ることになっています。 ちなみに平成15年度生活扶助基準の例を示しますと、基準額はこのようになっ ています。年齢別、世帯人数別に金額は異なっています。                   東京都区部等   地方郡部等 標準3人世帯(33歳、29歳、4歳) 162,490円   125,940円 高齢者単身世帯(68歳) 80,980円    62,760円 高齢者夫婦世帯(68歳、65歳) 122,180円    94,690円 母子世帯(30歳、9歳、3歳) 158,960円   123,200円 -------------------------------------------------------------- ○ 生活保護制度の問題点  生活保護制度も約50年を経過し、いろんな問題点が指摘されるようになりまし た。また今後医療費を中心として扶助の増加はさけられず、制度の見直しを含め 検討されるようになってきました。そして長引く不況で厳しい雇用情勢が続く中、 生活困窮者を救済する生活保護の適用を、法の趣旨に反して厳しく制限している 自治体が増えていることも指摘されています。 厚労省の審議会でも平成15年6月19日「生活保護制度の在り方の見直しに関する 指摘」がされ、下記のような意見が公開されています。 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/08/s0806-6.html   ---------ここから引用--------- 「近年、高齢化の進展や経済活動の低迷等を受けて生活保護受給者が急増してき ている。  生活保護は国民生活の最後のセーフティネットとしての機能を有するものであ り、真に困窮した自立不可能な者に最低限度の生活を保障することを目的とする ものである。しかしながら、受給者に一定の収入を保障するものであるが故に、 保障水準やその執行状況によっては、モラルハザードが生じかねず、かえって被 保護者の自立を阻害しかねないという面も指摘される。このため、制度・運営面 について、以下の観点から、しっかりとした点検と見直しが必要である。  まず、生活保護の地域別の被保護率をみると、地域における社会経済・雇用情 勢の差異に留意する必要があるが、地域によって20倍近い差があることを踏ま えると、その執行の適正化とそのための地方公共団体の積極的な取り組みの促進 が必要と考えられる。  また、近年の物価・賃金動向等の社会経済情勢の変化を踏まえるとともに年金 制度改革における給付水準の見直しとも一体的に検討すれば、生活扶助基準・加 算の引下げ・廃止、各種扶助の在り方の見直し、扶助の実施についての定期的な 見直し・期限の設定など制度・運営の両面にわたり多角的かつ抜本的な検討が必 要である。  特に、原則70歳以上の高齢者に上乗せされる老齢加算は福祉年金創設との関 係から昭和35年に創設されたが、年金制度改革の議論と一体的に考えると、70 歳未満受給者との公平性、高齢者の消費は加齢に伴い減少する傾向にあること等 からみて、廃止に向けた検討が必要であると考えられる。また、母子家庭につい てみた場合、一般の母子世帯の平均の所得金額(21.1万円、世帯人員平均2.64人) と被保護母子世帯の最低生活費(22.1万円、世帯人員平均2.91人)を比較した場 合、母子加算も同様であると考えられる。  さらに医療保険と同様、長期入院患者等の入院解消やレセプト点検等により医 療扶助の適正化を図ることが重要である。」 とされ生活保護の見直しが考えられ ている。  -----------ここまで------------------ -------------------------------------------------------------- ○ 生活保護制度の現状と問題点 生活保護制度の在り方に関する専門委員会の設置について http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/08/s0806-6.html この報告書から生活保護の現状と問題点を拾って見ます。 ◎ 生活保護を受けている人  約130万人で、保護率は10‰です。  平成15年3月現在で129万2千人。保護率は人口千人あたり10.1人(10.1‰) です。  保護を受けている人数は、昭和27年に生活保護法が施行されて間もない頃には、 今よりも多く200万人(保護率23.8‰程度)を超えていました。その後、昭和40- 50年代は130万人〜140万人(保護率12〜14‰程度)で横ばいとなり、昭和60年 以降、経済の成長とともに減少傾向となり、平成7年には約88万人(保護率7.0‰ 程度)と減少のピークでした。しかし、その後、不況や高齢化の進行を背景に最近 再び保護申請が増加して、平成13年には114万人(保護率9.0‰)、そして15年に は上記の約130万人になっているのです。  この保護率と失業率は高い相関にあり、失業率の高い地域は保護率が高く、保 護率の動向は失業率の影響を受けていると言われています。 ----------------------------------------------------------- ◎ その他の被介護者の現状  ○ 生活保護の開始理由  一番多いのは世帯主の傷病ですが、その他には。老齢による、貯金等の減少・  喪失、定年・失業等が上位です。  平成9年度以降、失業、倒産、収入の減などを理由とするものの割合が急激に  増加しています。  ○ 最近の傾向として、完全失業率の増加にあわせて、稼働能力のある中高年  層等が多いと見込まれる「その他世帯」の単身世帯の伸びが顕著  ○ 被保護者の世帯別  世帯の約3/4が単身世帯であり、母子家庭は約3割、特に高齢者世帯において  は約9割が単身世帯です。  ○ 被保護世帯の世帯類型をみると、高齢化の影響を受けて高齢者世帯が増加  しているほか、稼働能力がある者を多く含む母子世帯及びその他世帯の増加が  最近顕著です  ○ 近年、就労率の低下、収入増を理由とする保護廃止の割合の減少など、被  保護世帯の経済的な自立が必ずしも十分ではないようです  このように生活保護の現状は、失業・倒産など収入の減少を理由の保護者が 増加し、主に高齢者・単身所帯で今後も経済的自立が難しい事が伺えます。 ------------------------------------------------------------ ◎ 生活保護の現状 保護費用の割合  生活保護の保護費の年度別の総額は昭和50年は6,851億でしたが、53年に 1兆円を超し、昭和60年に1兆5232億円、平成3年には1兆3098億円と少し 総額は減りましたが、再び平成7年以降急激に増加し平成13年には2兆円をこ し約2兆1117億円となっています。 ○ 生活保護費は平成13年度で約2兆1117億円ですがその内訳は。    医療扶助費   1兆1229億円    生活扶助費     6950億円    介護扶助費      221億円    住宅扶助費      2239億円    教育扶助費      89億円     施設事務費及び委託事務費 345億円  となっており、保護費の総額の内、医療扶助費が53%、生活扶助は約33%と なり、生活保護費の半額以上が医療扶助なのです。  ----------------------------------------- ○ 医療扶助の内訳  生活保護が適用となると、医療費は医療扶助から支払われるため自己負担な しに必要な医療を受けることができます。生活保護の医療費は、生活保護の指 定医療機関の主治医による診断書が必要です。  国民健康保険加入者はいったん国保から脱退し、保護が廃止になった段階で 再度加入の手続きを取ることになります。社会保険加入者は、まず社会保険で 支払われる分を除いた部分(通常は3割自己負担となる)に医療扶助が適用さ れます。  なお、生活保護法以外の医療費公費負担制度*が利用できる場合には、その利 用を行う必要があります。    医療扶助の内訳  少し調べたデータに差がありますが、13年度総医療扶助の内訳は、   一般診療は1兆0048億円で、    そのうち入院医療費、7137億円、       入院外医療費 2911億円、       歯科医療費  342億円、となっています  医療扶助費は1兆円を超し、平成2年度以降は年平均3.9%と毎年上昇していま す。また医療扶助費の約7割は入院に係る費用です。そして医療扶助の入院患者 の特徴として挙げられるのは入院患者に占める"精神疾患"の患者が過半数を占め ていることで、施設での入院期間が5年以上の長期患者が多いことです。  これは医療扶助がそもそも生活困窮者のための医療給付であることから、無年 金の高齢者や住居を持たない者の宿泊機能の代替として施設がその役割を担って いるとも考えられます。  また厚労省の調査では精神病床の入院患者のうち、約2割が「受入条件が整え ば退院可能な者」とされており、いわゆる社会的入院の解消が緊急の課題とされ ていますが、これらの長期入院者の受け皿は今の制度ではありません。 ---------------------------------------------------------------- ○ 公費負担医療制度*について  ここで少し公費負担医療制度について説明します。 公費負担医療制度とは  本邦では国民皆保険制度で、すべての国民が健康保険に加入しています。 一般(高齢者以外)は、原則として医療にかかった費用について、保険給付7 割、 自己負担3割となっています。しかし、生活に困窮するなどした時には、医療費 を公費でまかなう仕組みがあります。例えば原爆被害のように国として補償すべ き医療について、保険を使わずに全額を国費で負担する。このように公費(税金) からまかなわれる医療を公費負担医療といいます。  公費負担医療には、国の法律にもとづいて全国一律に行われるものと、地方独 自のもの(地方公費という)とがあります。生活保護や障害がある人のための医 療(障害者医療)などは前者で、制度の内容は全国一律です。  公費負担医療費の一部には「保険優先」になっているものもあります。つまり 医療費のうち保険給付割合に相当する部分は保険から給付され、残りが公費(国 や地方の税金)から給付されるものです。 ○ 公費負担医療給付費の内訳 『国民医療費』によると、公費負担医療給付費のうち67.0%は、生活保護法にも とづく医療扶助です。また結核予防法にもとづく適正医療等は0.7%、精神保健及 び精神障害者福祉に関する法律による措置入院等は5.7%です。  1990 年度の医療費を100 とすると、2001 年度の医療費は、生活保護153、 結核予防29、精神保健福祉144、その他177 だと言う統計もあります。  生活保護も精神福祉も増えていますが、「その他」として括られている費用の 増加が目立ちます。  また国民医療費に占める生活保護の割合をみますと、国民医療費全体の3.6%を 占めると言われます。国民医療費全体の伸び率を上回る伸びを示していますので、 この傾向がつづけば、医療費全体に占める生活保護の比率はますます高まると予 想されます。 --------------------------------------------------------------- ○ 生活保護認定の地域差(地域別保護率)  生活保護は、制度発足時より、地域によって保護率が大きく違っていました。 同じ発想の扶助なのに、これだけ大きく保護率が違う事も大きな問題の一つです。 過去にはある地域・自治体で保護の認定が甘く、いわゆる「過保護」があったの も事実ですが、近年は当然保護されるべき人たちが、自治体の制限で保護を受け られない現実が問題となっています。 ◎ 年度別地域別保護率(‰) ----------------------------- ●昭和40年度(制度の初期) 全国 北海道 東北 関東I  関東II 北陸 東海 近畿I 近畿II 山陽 山陰  16.3 23.2 20.7  9.5  11.0  10.9 7.9  9.9  11.9  14.4 21.2  四国 九州北 九州南 沖縄 25.7 44.8  31.3  -- ------------------------------ ●昭和60年 全国 北海道 東北 関東I  関東II 北陸 東海 近畿I 近畿II 山陽 山陰  11.1 21.1 10.0  8.6  5.1   5.2. 5.2 15.4  10.9  11.0 10.0  四国 九州北 九州南 沖縄 16.4 28.0  17.2  24.0 -------------------------------- ●平成7年(全国的に保護率が一番低かった年) 全国 北海道 東北 関東I  関東II 北陸 東海 近畿I 近畿II 山陽 山陰  7.0  15.4  5.6  5.6  2.7  2.7  3.1 10.7  6.4  6.9  5.0   四国 九州北 九州南 沖縄 9.7  13.3  8.8 12.9 --------------------------------- ●平成13年(最近) 全国 北海道 東北 関東I  関東II 北陸 東海 近畿I 近畿II 山陽 山陰  9.0  19.5  6.7  8.5   3.6  3.3  4.0 14.8  7.3   8.6  5.2  四国 九州北 九州南 沖縄 10.8 13.7  9.8  13.8 ----------------------------------- 注)地域区分は次の分類による。 (1)北海道、(2)東北(青森・岩手・宮城・秋田・山形・福島)、(3)関東・(埼玉 ・千葉・東京・神奈川)、(4)関東・(茨城・栃木・群馬・山梨・長野)、 (5)北陸(新潟・富山・石川・福井)、(6)東海(岐阜・静岡・愛知・三重)、 (7)近畿・(京都・大阪・兵庫)、(8)近畿・(滋賀・奈良・和歌山)、 (9)山陽(岡山・広島・山口)、(10)山陰(鳥取・島根)、 (11)四国(徳島・ 香川・愛媛・高知)、(12)北九州(福岡・佐賀・長崎・大分)、 (13)南九州(熊本・宮崎・鹿児島)、(14)沖縄 ---------------------------------------  図表で表示できないので、少しわかり難いと思いますが、この資料によると 北海道・近畿(京都・大阪・兵庫)・北九州(福岡・佐賀・長崎・大分)・沖 縄の保護率が高く、13年度では北海道の19.5と北陸の3.3では約6倍も差があ ります。  またここでは都道府地域の保護率として表してありますが、生活保護は都道 府県単位の認定ではないので、市町村の認定率にも大きな差があるのです。  最低限の生活レベル認定にこんなに地域差があるのも不思議な制度です。  制度当初の北九州の保護率44.8は異常ですが、当時革新系の長の地域で生活 保護の乱発と言われたこともあり、勿論地域で生活に差はあると思いますが、 国の最後のセーフティネットだとすれば、地域差の是正も必要な改革だと考え ます。  その他にも生活保護制度には、当初からモラルハザードを含め、もっと色ん な多くの問題が指摘されていましたし、最近は、失業・ホームレスの問題など 保護が必要な人が保護を受けられないことも指摘されています。今回は紙面の 都合で、全てに言及出来ませんので、制度と現状の紹介、関連サイトの紹介に させていただきました。 ----------------------------------------------------------------- ○ 参考サイト 生活保護における医療扶助の現状と課題 http://sociosys.mri.co.jp/stuff/2003/0821.html  「生活保護に関する公的統計データ一覧」 http://www.ipss.go.jp/japanese/seiho/seiho.html 「生活保護」最近の特徴と4月から変わった点、介護扶助について http://www.incl.ne.jp/~ksk/ksk/jyo/ji990506.html どう変わる生活保護 http://www.yomiuri.co.jp/iryou/ansin/an371801.htm 生活保護の水準見直し http://www.yomiuri.co.jp/iryou/ansin/an3a1002.htm 公費負担医療給付費の分析 http://www.jmari.med.or.jp/research3.php?no=243 厚労省関連資料 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/gyousei/02/kekka1.html http://www.mhlw.go.jp/topics/2004/bukyoku/syakai/1-j1.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ●【WEB】 http://www.docbj.com/kkr/   ご意見・ご感想等ございましたら、以下のメールアドレスへ 【MAIL】   kotui@docbj.com   --------------------------------------------------------- 購読のお申し込みと削除は、上記のホームページから直接出来ます。また過 去に発行したメールマガジンはこのホームページで参照可能です。 ----------------------------------------------------------  最近、読者の皆様から編集部宛にいろんなメールをいただいております。皆 様からのご意見も参考にして、メルマガ「かかりつけ医通信」の紙面づくりに 生かして行きたいと考えておりますので、どうぞご意見をお寄せ下さい。また 皆様から寄せられたメールは、出来るだけ紙面でご紹介していきたいと考えて おりますので、事前の承諾なしにメルマガに掲載させていただく場合がござい ます事をご了解下さい。匿名などのご希望や、掲載を望まれない場合には、そ の旨御明記願います。 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