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 かかりつけ医通信    第43号   2002年11月 1日発行
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    健康・医療のお役立ち情報・・・医療の現場から
 私達は、医療の現場で働く臨床医です。実際の診療やネット上から
 得た健康と医療の役に立つ情報を、市民の皆さんにお届けします。
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▼目次▼
1) 睡眠時無呼吸症候群について
   川島医院(耳鼻咽喉科)川島 理先生
2) 注射の前のアルコール消毒は必要か? 
  山形市立病院済生館 形成外科 夏井 睦先生の
  『新しい創傷治療「消毒とガーゼ」の撲滅を目指して』から -1-
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1) 睡眠時無呼吸症候群
 今回は、群馬県の川島医院(耳鼻咽喉科)川島理先生に執筆して
いただきました。
 http://med.gunmanet.or.jp/kawasima/

家族や周囲の人に「いびきが大きい」「眠っているときに呼吸が止まっていた」
と言われたことはありませんか。
 夜間に十分な睡眠時間をとっているはずなのに、日中に眠くなって困るという
人がいます。このような場合、大きないびきをかき、睡眠時に無呼吸があるなど、
夜間の睡眠中の呼吸に問題が見られることがよくあります。
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☆いびきのメカニズム

鼻から入った空気は、のどを通って気管・肺に入ります。この空気の通り道
(気道)のどこかが狭くなると、その部分を無理に空気が通ろうとするために
”いびき”がおこります。
元来睡眠中はのどの周囲の筋肉が緩み、仰向けに寝ると、舌のつけ根の部分
(舌根:ぜっこん)やノドチンコ(口蓋垂:こうがいすい)の周囲の粘膜(軟口
蓋:なんこうがい)がのどの奥に落ち込み気道が狭くなります。健康な人であれ
ば、たとえ気道が狭くなっても、塞がることはありません。これに、いくつかの
原因が加わることで”いびき”が発生するわけです。
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☆いびきの原因

1. 肥満、首の太い人:気道が狭くなります
2. 飲酒、疲労:普段より睡眠中には筋肉の緊張が緩みます
3. 老化:加齢とともに、筋肉や粘膜がたるみ気道が狭くなります
4.鼻・口腔(口の中)・咽頭(のど)の病気:主なものは、慢性副鼻腔炎
 (蓄膿症)、アレルギー性鼻炎、扁桃肥大などがあります
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☆「睡眠時無呼吸症候群」

 気道が塞がって呼吸が止まると、新鮮な空気が入ってこないために、血液中の
酸素が減ってきます。こうなると、眠っていた脳が目覚め、呼吸を再開するよう
に指令を出します。呼吸が止まってから再開するまでの時間には個人差がありま
すが、多くの場合、数十秒以上たってから、大きないびきとともに呼吸が再開し
ます。しばらくして、また眠ると、再び筋肉が弛緩して気道が塞がります。無呼
吸ごとに、脳は繰り返し目覚めて指令を出す必要が生じるため、まとまった質の
よい睡眠をとることができません。それで、「夜間に十分睡眠をとっているのに、
日中眠くなる」という現象が起こるのです。
このようないびきがひどく、睡眠中”呼吸が止まる状態”が現れる人の中で、
10秒以上の呼吸停止が7時間の睡眠中に30回以上または、1時間の睡眠中に
5回以上認められるものを”睡眠時無呼吸症候群”といいます。

この病気になると、熟睡できず慢性的な睡眠不足となり、いびき以外にいろいろ
な症状が出てきます。
 1.早朝の頭痛
 2.昼間よく眠くなる:交通事故を起こす確率が高くなるという報告もあります。
 3.集中力、記憶力の低下:仕事の能率が低下したり、子供の場合発育障害や勉
  学の遅れを生じる事となります。
 4. 高血圧、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などの病気にかかりやすくなる:中等度
  以上の睡眠時無呼吸症候群の場合、高血圧になる危険性は普通の人に比べて
  約3倍というデータもあります。その結果、寿命が短くなる報告も出ています。

隣でいびきをかいている人がいたら注意深く観察してみて下さい。
 1、 いびきをかいている間に静かになる時間がある
 2、 何度も寝返りを打つ
 3、 小児の場合、睡眠中に胸が大きくへこむ
 この様な人は要注意です。呼吸をしていない時間があるかもしれません。
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☆いびきの診断

1、 観察
 まず、同居している家人によく観察してもらいます。意外と「いびき」を本人
 が自覚していないことが多く見られます。「いびきがあるかどうか」 あれば、
「呼吸が止まっていることがあるかどうか」 何日かに渡って観察してもらって
 ください。いびきをかいて寝ているところをビデオ撮影しておけば、自覚の無
 い本人も納得しやすいでしょう。
2、 いびき以外の症状(前述)
 ここで、「いびきがひどい」「無呼吸がありそうだ」と思ったら、耳鼻咽喉科
 専門医を受診してください。その際、家人が同伴して「いびきがどのくらいひ
 どいか」を医師に説明することが重要です。前述のビデオを持参すれば、完璧
 です。
3、 耳鼻咽喉科的診察
 鼻〜口腔〜咽頭〜喉頭を診察して、原因となるような耳鼻咽喉科疾患の有無を
 確認します。
4、 睡眠ポリグラフ検査
 睡眠時無呼吸症候群をきちんと診断するためには、「睡眠ポリグラフ検査」が
 行われます。
 これは、患者さんの体にいろいろな検査端子をつけて、その状態で眠ってもら
い、睡眠中の脳波や筋電図などを調べる検査です。また、血液の酸素飽和度(最
も多く酸素を取り込んだ状態を100とし、血液中の酸素がどの程度あるかを表す)
も調べます。酸素飽和度は、睡眠中でも96〜98程度あるのが普通ですが、無呼吸
の状態になると、90以下まで(ひどい人は、70ぐらいまで)低下してしまう人も
います。
 検査は、原則として一泊入院でおこなわれ、一晩眠ったときのデータが集めら
れます。こうして得られた検査結果を分析することで、睡眠中に無呼吸がどの程度
起きているのかを、正確に把握することができます。(最近は、ポータブルタイプ
の機械で、自宅で寝ながらこの検査(簡易タイプ)を受けることもできますので、
入院の難しい方も検査可能になっています。)
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☆いびきの治療

1、生活習慣の改善
 1.減量
  太っている人は、まず減量です。これだけでもいびきがなくなる人もいます
 2.生活のリズムを規則正しくする。
  アルコールは筋肉を弛緩させるため、気道の閉塞が起こりやすくなります。
  就寝前は、飲酒を控えるようにします。睡眠薬にも筋肉を弛媛させる作用があ
  るので、服用には注意が必要です。
 3.横向きに寝る
  あお向けで眠ると、気道を塞ぎやすくなるため、横向きに眠ることが勧められ
  ます。
  パジャマの背中にポケットをつけ、そこにテニスボールなどを入れておくと、
  あお向けでは眠りづらくなるため、横向きで眠る習慣がつきやすいでしょう。

2、 鼻・口腔・咽頭などの病気の治療
 特に鼻の病気(アレルギー性鼻炎・慢性副鼻腔炎)の場合、薬でかなり軽減され
 る事があります。効果のない場合や薬による治療法のない場合、外科的治療(手
 術)を行うことになります。
 外科的治療としましては、鼻のなかの粘膜や骨を一部除去し鼻を通りやすくした
 り、扁桃腺の切除や口蓋垂(ノドチンコ)の付近を切除してのどの形成(口蓋垂
 軟口蓋形成術)を行うなど患者さんの状態によって様々です。いくつかの手術を
 組み合わせて行うこともあります。子供の場合は、アデノイドと扁桃腺の切除が
 中心となりますが、手術で劇的に症状が改善することもよくあります。

3、マウスピース
 眠る前にマウスピースを装着することで、下あごを前方に引き出した状態で固定
 し、気道が塞がるのを防ぐ方法もあります。
 マウスピースは患者さんの歯や口の形状などに合わせ、歯科医師が作成します。
 睡眠障害の専門医と連携をもつ歯科医師に作成してもらうことが大切です。

4、CPAP(経鼻的持続陽圧送気法)
 睡眠時無呼吸症候群の治療法で、多くの患者さんに対して最も有効なのが、
「CPAP(シーパップ)」という装置を使った治療です。
 CPAPは、送風ポンプを備えた本体とエアチューブと鼻マスクから成り、患者さ
 んは鼻マスクを装着して眠ります。そして、睡眠中に、一定の圧力を加えた空気
 を、鼻から気道に送り込みます。これによつて、舌や軟口蓋が押し上げられるた
 め、気道が塞がらずにすみます。空気圧は、患者さんの気道閉塞の程度に合わせ
 て、調節します。
 なかには、鼻マスクに慣れるまでに時間のかかる患者さんもいますが、CPAPを
 使うと無呼吸による症状が消え、ぐつすり眠ることができるため、ほとんどの患
 者さんは、抵抗感なく使用できるようになります。
 この治療には、健康保険が適用されますので、医療機関から装置を借りて使用す
 ることになります(月に一度、医師の診察を受けることが必要です)。
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 ”いびき”は、他人に迷惑をかけるだけでなく、本人の健康をも左右しかねませ
ん。特に子供の場合、自分で睡眠障害を訴えることはありません。周囲の家族の人
の注意が必要となります。
”いびき”は、一つの原因だけでおこることは少なく、いくつかの要因が関与して
います。”いびき”のひどい人(特に、睡眠時に無呼吸のある人)は、一度耳鼻科
咽喉科専門医の診察を受けることをお勧めします。
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睡眠時無呼吸症候群に関するサイトも参考にしてください

http://ibiki.net/sas-tei.htm
http://www.nms.ac.jp/NMS/4med/SAS/
http://www.sas-info.jp/aboutsas/index.html
http://www.good-sleep.gr.jp/sas/
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2)「注射の前のアルコール消毒は必要か?」

貴方は、こんな質問されたらどう答えますか。
医療関係者も、一般の方も、「こんなバカな質問はするな、普通は注射の前の
アルコール消毒は必要だ、どこでもやっているし消毒もしないで注射したら訴
えられる」と答えるはずです。
ところが、「注射の前のアルコールによる皮膚消毒は意味がない」という
ホームページを見つけました。

山形市立病院済生館 形成外科 夏井 睦先生の『新しい創傷治療「消毒と
ガーゼ」の撲滅を目指して』というホームページです。
http://www.asahi-net.or.jp/~kr2m-nti/wound/

注射の前のアルコール消毒だけでなく、「消毒とガーゼの撲滅を目指して」と
いうサブタイトルで分かるように今までの医療現場の常識を覆すようなタイト
ルが並んでおり、医学的に検証されています。
創傷治療の基礎知識、消毒について、閉鎖療法とは、治療の実際、創傷被覆材
について、等凄い量のホームページです。
 かかりつけ医通信では夏井先生の許可を得て『新しい創傷治療』からその一部
を読者の皆様に2-3回に分けてご紹介します。ここで取り上げるのは極一部です。
是非夏井先生のホームページをご覧下さい。
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「消毒について」
http://www.asahi-net.or.jp/~kr2m-nti/wound/title_shoudoku.htm

○ 注射の前のアルコール消毒は必要か?
http://www.asahi-net.or.jp/~kr2m-nti/wound/wound048.htm

 注射をする前,採血をする前,病院では必ず酒精綿(アルコールが染み込ん
だ綿)で皮膚を拭き,チクっとされるのが日本の医学の常識。恐らく,これを
しないで注射・採血している病院はほとんどないと思うが,いかがだろうか?
 実はこれも無駄ではないかと考えている。

 なぜ注射(採血)の前に酒精綿で皮膚を拭くかと尋ねられたら,医者・看護
婦はどう答えるだろうか? 何人かの看護婦に確かめてみたが,「注射の前に
は必ず酒精綿で皮膚を拭くように教えられたから」,あるいは「皮膚の細菌が
注射と共にからだの中に入って感染するのを防ぐため」が多かった。恐らく,
医者に尋ねても同じ答えしか返ってこないはずだ。断言するが,これ以外の答
えはありえないと思う。

 もしもこれ以外に答えがないとしたら,この「注射の前の酒精綿」は全く無
駄だ。意味のない行為だ。
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 これまで何度も述べてきたように,皮膚・皮下組織の感染は細菌だけによっ
て起こるのではない。壊死組織・異物があって初めて,細菌による感染が起こ
るのだ。
 確かに,酒精綿で拭かずに注射した場合,針先に皮膚の細菌(常在菌)がく
っついているかもしれない。そしてそれが,皮下脂肪層に入るかもしれない。
しかしそれでおしまい。そこから「感染」まで発展することはありえないのだ。
注射の針はすぐに抜かれてしまうし,注射したところに異物・壊死組織が偶然
あれば話は別だが,そうでない限り感染は絶対に起こりえない(IVHカテーテ
ルのように長期間留置する場合は,カテーテル自体が異物になっているので,
話は別)。たとえ注射針の先が折れて残ったとしても,金属片が感染源にな
ることはまずほとんどない。
 と考えると,「採血(注射)の前には酒精綿で皮膚を消毒」という医療現
場の常識も,根拠が極めてあやふやになってくる。一体,この行動には理論
的根拠があるのだろうか。
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 恐らく,次のような実験(?)をしてみれば,事の是非は明らかだろう。

 1.酒精綿で消毒してから注射・採血した群
 2.滅菌水で皮膚を拭いてから注射・採血した群
 3.滅菌していない水で皮膚を拭いてから注射・採血した群
 4.何もしないでいきなり注射・採血した群
 4番目をコントロール群として残りの3群と注射・採血後の局所感染の発生率
を調べるだけ。それぞれ1000例も調べれば結果が出るはず(面倒だから私はし
ないけど・・・)。単なる勘だが,この4群に有意差はないはずだ。有意差が
出るだけの根拠が考えつかないのだ。
 賭けてもいいが感染率に差は出ないだろう。

 もしも,注射(採血)前の酒精綿での皮膚消毒に意味があるとしたら,どの
程度の濃度のアルコールで,作成後どの程度の時間放置したものまでが有効で,
どのくらいの時間をかけて皮膚をこするべきかを提示すべきだろう。しかし今
だかつて,このような「ガイドライン」が示されたことはないはずだ。つまり
この「注射・採血前の酒精綿での消毒」は単なる習慣,風習,言い伝えではな
いだろうか。なんとなく効きそうだ,と言うことでしているだけだと思う。
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 この酒精綿がらみの「風習」もそろそろ,考え直していいのではないだろうか。
 必要だとするデータが出たらその方法を厳密に守るようにすればいいし,必要な
いと言うデータしか出なかったら,それはさっさとやめるべきだ。一番問題になる
のは「必要かどうか検証されていない」という状態のまま,なんとなくそれを続け
ていることだ。
 酒精綿やアルコールがいくら安いと入っても,全国で使われているものを合計
すると,実に莫大な金額になるはずだ。それがすべて無駄だったとするとこれは
やはり,無視すべきではないと思うが,いかがだろうか?

 ちなみに筆者であるが,この2年ほどは局所麻酔をするのに皮膚の消毒は一切
していない。拭きもせずにいきなり注射。これを全例に行っているが,注射によ
り感染した症例はいまだに皆無である。
 たかだか400例ほどの経験ではあるが,注射する時に酒精綿でゴシゴシしなく
ても,皮膚・皮下組織の感染が引き起こされることはないのである。

 なお,酒精綿に関しては以前も書いたが,薬液缶に大量に作っておいて時間が
経った酒精綿は,消毒効果はかなり弱まっているらしい(アルコールが蒸発して
しまうため)。作り置きの酒精綿で細菌が繁殖していた,という報告もあったは
ず。
 そのためアメリカでは「作り置きの酒精綿」は使用せず,1枚パックのものを
使っているらしいことを,付け加えておく。
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○ 消毒は必要なのか?
http://www.asahi-net.or.jp/~kr2m-nti/wound/wound011.htm

 医療現場で最も日常的に行われているのが消毒だ。医者の第一歩は「傷を
消毒」することを学ぶことから始まるし,外科病棟の一日は「傷を消毒」す
ることで始まる。まさに病院と消毒は切っても切れない間柄だ。
 だが,消毒している医者に問うてみたい。あなたは何のために消毒してい
るのか,どんな効果を期待して消毒しているのか・・・と。
 恐らく医者からは,次のような答えが返ってくるはずだ。

 *傷が化膿しないように消毒している。
 *傷が化膿しているから消毒している。
 *傷は消毒するものと決まっていて,疑問を持つ方がおかしい。
 *昔,先輩の医者に消毒しろといわれたので,それを守っているだけ。
 断言してもいいが,これ以外の答えは返ってこないと思う。
 というか,「なぜ傷を消毒しているのか」を考えたことのある医者の方が
圧倒的に少ないはずだ。
 しかし,本当に傷は消毒しないと化膿するのだろうか? 化膿した傷は
消毒しないと治らないのだろうか?
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 私がまだ駆け出しの医者だった頃,なぜ手術後に手術創を消毒するのか疑問
に思ったことがある。

 例えば大腸癌の術後を考えてみよう。癌は切除され,大腸同士を吻合し,腹
膜や腹直筋鞘,そして皮膚を縫合して手術は終了する。次の日から毎日,回診
のたびに腹部の縫合創を消毒するのが日課だ。研修医ならどうやって傷を消毒
するか,先輩の医者から手取り足取り,教えてもらうはずだ。

 「どういう理由で傷を消毒しているのか」については一切説明はないが,多
分聞いたところで「傷が化膿しないように消毒する」という答えしか返ってこ
なかっただろう。
 しかし考えて欲しい。化膿されて怖いのはお腹を縫った傷ではなく,大腸吻
合部だ。ここが化膿して傷が破れたら,お腹中,ウンコだらけ。重篤な腹膜炎
が起こる。高齢者だったら命だって危ない。それほど危機的な情況になってし
まう。
 もしも,消毒が傷の化膿にそれほど重要であり,化膿防止に必要であれば,
大腸吻合部をなぜ毎日消毒しないのだろうか? 消毒にそれほどの威力があっ
たら,腹部の縫合部なんて放っておいて,大腸吻合部を消毒すべきだろう。
それが科学的な医療ってもんだ。

 もちろん,「そんな事言ったって,お腹の傷を毎日開くわけにいかないよ。
大変だし非現実的だよ」,という反論も出るだろう。だが,大変だからしない
と言うのは本末転倒。必要な医療行為だったらそれをするように工夫すべき
だ・・・本当に必要だったら・・・。
 しかも,この大腸吻合部は消毒していないだけでない。ウンコという大腸菌
の塊が中を四六時中通っているのだ。つまり,ここは「消毒できない上に,大
量の細菌が必ずいる」という「化膿」にとっては最悪(最善?)の状態にある
のだ。
 しかし,通常の場合,大腸吻合部が感染(化膿)により縫合不全を起こすこ
とは稀だ。つまり,消毒していないのに化膿しない。
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 じゃあ,消毒って何なんだ? 何のためにしているんだ?

 あるいは抜歯後の消毒。歯を抜いたあと,毎日のように歯科医院に通院し,口
の中を消毒してもらうはずだが,消毒している歯科医たちはこの行為に空しさを
感じていないだろうか?
 何しろ,口の中なんて消毒したところで,消毒液なんてすぐに唾液で流されて
しまう。何となく消毒しないと不安だけど,すぐ流されてしまうのがわかってい
て消毒するのはすごく馬鹿らしくないだろうか?
 あるいは顔面外傷で「頬から口の中」までの長大な傷を受傷した患者がいて,
苦労の末,傷を縫ったとしよう。もちろん,頬の傷は消毒できる。唇の傷も消
毒できる。しかし,それがもっと奥(それこそ喉の奥まで)まで連続している
場合はどうするのだろう? そこまで深い傷はどう頑張ってももう消毒できない。
 この場合も,「頬は消毒できるが,口の中の奥にある傷は消毒できない」か
らという理由で,前者は消毒し,後者は消毒しないというのは論理的に不合理だ。

 要するに上記の例でわかる通り,術後の傷は消毒しても,消毒しなくても同じ
ように治るのだ。ということは,消毒しなくても傷は治るということを意味し
ている。しなくていいなら止めてしまったほうがいい。そっちの方が合理的で
科学的だ。

 つまり,消毒という行為とそれがもたらす結果についてちょっと考えてみると,
「消毒の意味」がわからなくなってくる。消毒は昔から行われている行為である
が,「昔からしているから」以外にその意味を説明できなくなってしまう。

次号に続きます。
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 吉村研:吉村内科(和歌山県) 内科医
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