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 かかりつけ医通信     第29号   2002年5月29日発行
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    健康・医療のお役立ち情報・・・医療の現場から
 私達は、医療の現場で働く臨床医です。実際の診療やネット上から
 得た健康と医療の役に立つ情報を、市民の皆さんにお届けします。

▼目次▼
1) 肝炎ウイルス検診について
2) 介護保険制度への提言-2-
   いつまでこんな要介護認定制度を続けるのでしょうか 

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1) 肝炎ウイルス検診について

皆様の地域でも「肝炎ウイルス検診」の案内が自治体から届きはじめたはずです。
今回は「肝炎ウイルス検診」についてご説明しますが、肝炎ウイルス検診の説明
の前にC型肝炎について知っていただく事が必要です。下記の厚労省のホーム
ページに「C型肝炎について」の説明が分かり易く記載されていましたので抜き
出してみました。厚労省・日医の公的な、最新のページです。
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○C型肝炎について(一般的なQ&A) 厚労省 平成14年2月更新
http://www.mhlw.go.jp/topics/0104/tp0410-1.html

C型肝炎とは、C型肝炎ウイルスの感染によって起こる肝臓の病気です。
肝炎になると、肝臓の細胞が壊れて、肝臓の働きが悪くなります。
肝臓は「沈黙の臓器」といわれ、重症化するまでは自覚症状の現れないケース
が多くあります。これは本来肝臓がもっている予備能の高さに由来しています。
このことを正しく認識し、症状がなくてもきちんと検査をして病気を早く発見
することが大切です。

C型肝炎の特徴を簡単にまとめると、以下のとおりです。
・血液を介して感染する。
・急性期では、A型、B型に比べて症状が軽い。
・C型急性肝炎の多くは慢性化する。
・慢性化すると、自然治癒はまれである。
・経過とともに肝硬変、肝がんになる人がいる。

C型肝炎ウイルスに感染すると多くの人が持続感染の状態となるが、その後、
慢性肝炎となる人も多く、さらに一部の人は肝硬変、肝がんへと進行すると言
われています。この経過を示すのに以下のようなデータがあります。

C型肝炎ウイルスに感染している40歳以上の100人を選び出すと、選び出した
時点で、65〜70人が慢性肝炎と言われています。
 また、無症候性のC型肝炎ウイルス感染者100人を選びだし、20〜30年間、
適切な治療を行われなかった場合
 10〜16人が肝硬変に
 20〜25人が肝がんに進行します。
 しかし、適切な治療を行うことで病気の進展をとめたり、遅くすることがで
きますので、C型肝炎ウイルスに感染していることが分かった人は、必ず医療
機関を受診して病気の状態等の診断を受けて下さい。
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我が国のC型肝炎の持続感染者は、100万人から200万人存在すると推定されて
いますが、自分自身が感染していることを自覚していない者が多く、さらに近年
の知見によれば、感染者の中から肝硬変や肝がんへ移行する可能性があることが
分かってきました。
そこで厚労省は、外部の専門家からなる「肝炎対策に関する有識者会議」を設置
し、平成13年3月に専門の立場からC型肝炎を中心とした今後の肝炎対策の方向
性について報告書をとりまとめ、その結果から今年から「肝炎ウイルス検診」を
行うことを発表し、すでに4月から実施している市町村もあります。

肝炎対策に関する有識者会議  報告書
http://www.mhlw.go.jp/houdou/0104/h0409-1.html
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肝炎多発地区の自治体の取り組み
1989年にはじめてC型肝炎ウイルス(HCV)抗体の測定が可能となり、従来
非A非B型とされていた肝炎の多くがC型肝炎と診断されるようになりました。
また、本邦の各地で散発的に流行した肝炎もそのほとんどがC型肝炎であること
が確認されています。
平成3年より我々の医師会は肝炎多発地区の疫学研究として全国に先駆けて自治体
働きかけてC型肝炎ウイルス検診を進めてきました。そして当時から全国的な肝炎
検診を訴えてきましたが、やっと今年から実現したことになります。

肝炎多発地区における医師会の取り組み
http://www.yamaguchi.med.or.jp/g-med/kuga/ishikai.html

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○肝炎ウイルス(C型肝炎・B型肝炎)検診

 基本健康診査と併せて実施されます。肝炎ウイルスだけの検診はありません。
平成14年度から18年度までの5年間をかけて実施することになります。5年の
実施期間中に一人1回限りとなります。

肝炎ウイルス検診対象者
 1.節目検診               
  40歳から70歳までの節目の人
  保健事業の健康診査の対象者のうち、40歳、45歳、50歳、55歳、60歳、
  65歳及び70歳の者。
 2.要指導者等検診
  1.過去に肝機能異常を指摘されたことのある人
  2.広範な外科的処置を受けたことのある者または妊娠・分娩時に多量に
   出血したことのある人であって定期的に肝機能検査を受けていない人
 3.二次検診
  今年度の基本健康診査においてALT(GPT)値により要指導と判定され
  た人

 注意【上記対象者でも下記の該当の方は対象にはなりません】
 ○C型肝炎ウイルス検診
  1.現在または過去にC型肝炎の治療を受けている人
   もしくは、経過観察中(定期検査中)の人
  2.C型肝炎ウイルス検査を受けたことがある人
 ○B型肝炎
  1.現在B型肝炎の治療を受けている、もしくは、経過観察中(定期検査中)
   の人
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○肝炎ウイルス検診の実施検査と方法

 肝炎ウイルス検診の項目は、問診、C型肝炎ウイルス検査及びHBs抗原検査
 とする。
(1)問診
 問診においては、基本健康審査の問診項目に加え、過去に肝機能異常を指摘
 されたことがあるか否か、現在C型及びB型肝炎の治療を受けているか否かな
 どについて、聴取する。また、その際に、肝炎ウイルス検診についての説明
 などを行い、肝炎ウイルス検診の実施についての受診者本人の同意を必ず得
 る。 
(2)肝炎ウイルス検査
 ア HCV抗体検査
  HCV抗体価をウイルスの有無を判定するための高力価群、中力価群、低力
  価群に適切に分類することのできる潮定系を用いる。
 イ HCV核酸増幅検査(HCV-RNA定性法)
  HCV抗体検査により中力価とされた検体に対して行う。また、核酸増幅検
  査は、定性的な判断のできる測定系を用いる。
 ウ HBs抗原検査
  凝集方等による定性的な判断のできる検査方法を用いる。

注)  検診でのHCV抗体検査は日常の診療で検査しているものとは少し検査法や結
  果が違っています。「検診セット」と呼ばれる検査法で行い、結果は抗体価
  を3つのランクに分類し、高力価群はC型肝炎感染者、低力価群は感染の危険
  の無い群に分けられ、中力価群のみPCR法でウイルス量を定性し、陽性群は感
  染、陰性群は非感染とすることになっています。
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○基本検診(住民検診)以外には肝炎ウイルスは検診できないのでしょうか。

厚労省のQ&Aによると
『平成14年4月より、以下の3通りの方法でC型肝炎ウイルス検査を実施す
ることになります。
 (1)老人保健法による肝炎ウイルス検査
 (2)政府管掌健康保健等による肝炎ウイルス検査
 (3)保健所等における肝炎ウイルス検査
 なお、上記以外にもC型肝炎の検査を行っている場合がありますので、いつも
受けている健康診断等の問合せの窓口等にご相談ください。』と記載されていま
すので政管健保の方たちも検診は可能だと思います。

「政管健保等による肝炎ウイルス検査」について
『政府管掌健康保険による生活習慣病予防健診を受けることのできる方が対象
となります。肝炎ウイルス検査は、生活習慣病予防健診の対象者のうち、35歳、
40歳、以降5歳間隔の節目の年齢に該当する方と、それ以外の年齢の方で過去
に肝機能異常を指摘されたことがある方、及び、生活習慣病予防健診でGPT値
が一定値を超えた方が対象です。
  検査は、対象となった方の希望によりおこないます。
なお、船員保険の生活習慣病予防健診を受ける方も、肝炎検査がうけられます。
実施方法等の詳細につきましては、お勤めの会社住所地を管轄する社会保険事務
局までお問い合わせください。』
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『自治体から届いた基本検診の案内に「職場検診を受けられた方は除く」と書いて
ありましたが、職場検診でも肝炎ウイルスの検査は出来るのでしょうか。』

こんな質問がありました、上記の厚労省の説明では政管健保による検診も可能の
ように書いてありましたが、地元の労働基準局に職場検診の肝炎ウイルス検診に
ついて問い合わせてみました。
「現在の所職場検診で肝炎ウイルスを検査する態勢にはなっていない」とのことで
した。従って今のところこの肝炎ウイルス検診は全国民の検診ではなく自治体の基
本検診受診者だけが対象といえます。
また検診では肝機能(GOT, GPT)も基本検査として検査されますが、この数値と
ウイルス検査の結果とは関連づけた結果報告ではなく、結果報告には気を付けない
と受診者は混乱してしまうと思いますし、逆に基本検診の要指導者だけが二次検診
になるという事も受診者には理解しにくいことだと思います。
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○検診の勧め・その他要望

C型肝炎が検査で診断できるようになって10年以上を経過し、すでに多くの方た
ちは診断され治療を行ってきました。従って肝炎ウイルス検診で新たな発見があ
るかどうかは不明ですが、もし感染を早期に知ることが出来れば治療も可能です
し、治療により肝癌の発生を押さえることが一番の目的です。
万一肝炎の存在が見つかったら、現在は治療法の研究も進んでいますので治療で
きますので、是非肝炎ウイルス検診を受けることをお薦めします。
そして一番大切なことは検診結果を正しく受診者に報告し、もし治療が必要な人
には専門医との連携システムを構築し、早期治療が行えるシステム作りが必要で
す。また高額なインターフェロン治療の医療費の補助や内臓疾患の障害として認
められていない肝臓病を身体障害者医療として認定する事なども訴えてゆくべき
だと思います。

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介護保険制度への提言 -2-
  いつまでこんな要介護認定制度を続けるのでしょうか 

今回から現実の問題点について、掲載してゆきます。
ホームページで訴えてきた事を中心にしていますし、発言時期が問題となることも
ありますので、一部には発言の日を残しております。
またこの介護保険制度・要介護認定制度を直接ご存じない方には、理解しにくい記
載もあると思いますし、メルマガでは図表が使えませんので、もし詳しい事がお読
みになりたい方は下記のホームページでご覧下さい。
http://www.urban.ne.jp/home/haruki3/index.html

関連サイト・参考文献なども最後に載せております。
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まず介護保険では、申請者が市町村の窓口に申請すれば、認定調査員による調査
(75項目の認定調査)と主治医による診断(主治医意見書)が必要です。この書類が
提出されれば、地域の介護認定審査会で審査が行われ認定調査の項目によるコン
ピューターの一次判定、その後審査員の意見調整で最終的な判定(二次は判定)が
されます。
申請者には二次判定結果が通知され、その人の「要介護度」が決定しその介護度
に応じた介護サービスが受けられます。

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○要介護認定における二次判定(認定審査会)の方法

 認定審査が始まる数ヵ月前から、日医総研の川越氏や土肥氏のホームページでは
「厚生省一次判定ロジックの問題点」が取り上げられ、このまま本番の認定審査で
使われることに警告を発していました。

一次判定ソフトの問題点とは
1)施設ケアと在宅ケアの整合性の問題
 施設データのみに基づいて構築されており、在宅ケアとの整合性が取れていない。
施設ケアと在宅ケアの介護時間からみた整合性の検証も行われていないため、在宅
の高齢者への適応に問題がある。また、調査対象者数の少なさにも問題がある。
 対象者は特別養護老人ホーム1,096人、老人保健施設1,169人、介護力強化病
院1,138人の入所者3,403名であり、この「施設のデータのみの調査結果」が要介
護認定の推定方法における基礎データとなっているのである。そしていまだに唯一
のデータとして使用され平成11年度の要介護認定基準最終案の実測値になっている
のである。その後は、ほとんど追加や再検証はなされていない。

2)樹形モデル構築上の問題
 モデルの作成が統計的手法に終始し、介護現場の専門的な意見がまったく反映さ
れていない。通常、臨床現場に樹形モデルを応用する際、臨床的観点からの検証
を行う必要がある。つまり、統計学的な妥当性を維持しつつ、さらに臨床的な理
解や枠組みと一致するかどうかが重要になるのだが、それがなされていない。

3)自立・要交接・要介護1の区別の問題
 樹形モデルを9つに分けたため、全項目に問題がない場合でも、合計介護時間は
25分となってしまう。要支援の定義は25分以上30分未満であり、時間による区別
が非常に難しくなっている。

4)調査項目区分の定義の問題
 樹形モデルでは、高齢者の属性に関する73の調査項目とその区分などに基づい
て、グループ分けが行われている。その際、区分があいまいなために、割り当て
られる介護時間が変わる可能性がある。

5)基礎データ収集時の問題
 今回の1分間タイムスタディは2日間だけ実施され、そのため入浴や機能訓練に
ついて、サービスが提供されていない人も、ケアが必要なかった人も同じ扱いを
しており、結果的に平均介護時間が短くなってしまっている。
以上のようなソフトの問題点があげられていました。

 そのほかの問題点として、73項目の調査項目がこれでよいのかも検討されていな
いし特に問題行動については、19項目の多数を調査するようになっているが、その
問題行動別の介護への時間のかかり方や症状の重みなどは何も区別されていないこ
とも介護度の認定には欠けているのではないかと考えていました。

 要介護認定は、コンピュータの一次判定と二次判定で構成されており、両者で補
完しながら、公平・公正な判定が行われる必要があります。しかし、厚生省の一次
判定ロジックには多くの問題点があり、問題点の中には、基礎データの信頼性に係
わる根本的な問題も含んでおり、現在の基礎データに基づいたロジックの推定には
限界があります。一次判定の推定精度が検証されるまで、当面、状態像に基づく二
次判定を重視した要介護認定の仕組みを構築する必要があります。
 今後、一次判定ロジックの推定精度を高めるため、特に在宅の高齢者に対する
タイムスタディ調査を行い、施設ケアと在宅ケアで整合性のあるロジックの構築を
図る必要があると考えています。
                   平成11年8月20日
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○一次判定ソフトの精度
 いよいよ介護認定審査会が始まりました。
 一次判定ソフトの精度は不安だらけです。

 一次判定ソフトを使用した印象は、昨年のモデル事業の基本的な問題は解決でき
ていないし、しかも検証もほとんどなくぶっつけ本番で使用されることに、「これ
でよいのだろうか」と感じています。
 我々の審査会も、本番前の審査会の予行演習を何度か行ってきました。

一次判定シミュレーションソフトの勧め
 最近はインターネット上で一次判定が予測出来る一次判定シミュレーションソフ
トソフトも公開されており、認定調査項目がわかれば誰でも一次判定結果が分かる
ようになっています。あるソフトでは、すべての項目を入力した後、要介護度の判
定結果を知る方式ではなく、調査項目を入力すれば、その時点の要介護度がリアル
タイムに変化する方式もあります。

 そこで予行演習の症例で、調査項目を入力してみて、余りの変化にびっくりしま
した。
 一次判定ソフトの分析に詳しいDr・ハッシーのHP、土肥氏のHPで盛んに話題に
なっている逆転現象を現実に経験しました。

 逆転現象とは重い調査項目を入力したら(介護の状況が重くなったのに)、突然意味
無く介護度が低くなったり、逆に介護の度合いが減ったのに要介護度が高くなったり
する一次判定の現象のことで、詳細は別に述べます。
 一般の一次判定の認定ソフトでは、判定結果は全て入力した後なので理解できにく
いかも知れませんが、リアルタイムで介護度がわかるソフトなら、どの項目を入力し
たり、外したりで介護度が変わることがわかります。
 こんな逆転現象が起こってしまうなら、一次判定は無意味だと言われても仕方ない
かも知れません。たまたま入力した項目によって、簡単に介護度が変化してしまうこ
とがあるのです。

 それもどこで起こるかは出たとこ勝負。
 一次判定は「運」も必要と言うことです。
 また、6ヶ月後の再認定時に症状や障害は「改善」していても、介護度がアップす
ることもあり得るし、逆もあることと言うことと一緒です。
十分な検証せずに、本番スタートした99年一次判定ソフト。
これでよいのでしようか。
 審査員も調査員も是非シミュレーションソフトを手に入れ、実感していただきたい
と思います。
                  平成11年9月10日
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一次判定シミュレーションソフトのダウンロードやホームページで判定もできま
すので試してください

 尾形医院ホームページ 
 http://www.o-ga-ta.or.jp/2000/cgi-bin/kaigodo/index.html
 Dr.ハッシーのホームページ
 http://www.wind.ne.jp/hassii/
 認定くん 大阪 畑先生
 http://www.hata.com/kaigo.htm
 百道浜ケアマネージメント研究会
 http://www.comel.or.jp/~kei/hantei.html
 注) 石田一紀・住居広士・橋本真也・加茂圭三著:要介護認定 SOS 
 介護保険で泣かないために インデックス出版 2000年
 これには付録としてDr.ハッシー(橋本氏)考案の認定ソフトが付いています。

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○要介護認定審査会の現場で
 認定審査会の苦悩

認定審査会での挨拶
 『介護認定作業はもうすぐ始まりますが、認定方法・制度の運営などまだ改善
の余地はたくさんあると思います。しかし、この制度に不満があるからと言って、
現実に認定審査の申請があれば、審査会として審査せざるを得ません。我々の認
定審査会としては公明正大に分かりやすい、申請者の側にたった審査を考えてい
ます。
 しかし、昨年のモデル事業での認定審査を経験された方も多くおられますが、
コンピューターでの一次判定がいかに難しいか、また当てにならないかは実感
されたことであろうと思います。
 今年の一次判定ソフトは昨年より改善されたとは聞いていますが、判定の資
料に使われた要介護者の数や対象は全く変わっておらず、介護の時間をいじくっ
たり、組み合わせを変えたりしただけで本質的には変わっていないことが指摘さ
れています。また最近は一次判定の状態像でも、ある項目を重く変更したら介護
度が軽くなると言う、いわゆる逆転現象も頻回に見られると言う報告もあり、果
たして一次判定は公正であるのか疑問視されています。
むしろ一次判定ソフトは欠陥だと言われています。

 特に「自立・要支援・要介護1」を区別することは一次判定の推定介護時間区
分では無理であると結論されています。
 そんな中での認定作業ですから、全てに公正と言う訳には行きませんので、申
請者からいろんな不満も出るかも知れませんが、この審査会では公明・迅速を心
がけたいと思います。
 一方、3つの合議体で全く同じ結果が出るものでもありません、先に述べたよ
うに一次判定ソフト自体の問題がありますし、調査員の調査の仕方、項目への取
り上げ方、入力時の転記ミスなども考えられる事項です。
 最後に基本姿勢として、どちらか迷うような症例の審査に当たったら、私は申
請者に有利なような認定にすべきだと考えています。』
 これは、準備認定審査を前に介護認定審査会の研修会で、地域の認定審査会の
会長に就任した時に私が委員の皆さんにした挨拶の一部です。

 その後審査は始りましたが、一次判定ソフトには次々に大きな欠陥が見つかり、
認定審査の手順についても、厚生省の作ったプログラムから打ち出される一次判
定を原案とする二次判定の手順では間違った判定をする可能性があると考えるよ
うになりました。
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○認定審査会の苦悩 続き
 認定審査を続けていると、そのほかにも色んな問題に直面する。
自分達の合議体だけで解決できる問題と制度自体の問題とがあります。

今回は認定審査の問題点として
 1.調査員の資質に左右される判定結果
 2.自立の認定の苦悩
について述べてみます。

1.調査員に左右される判定結果
 今回の認定システムの構造上の問題を考えると、すでに述べてきた
「要介護状態区分の変更等の際に勘案しない事項について」という一次判定
変更禁止条項のため、認定審査は一次判定に大きく左右されます。

 よく、「二次判定では一次判定にとらわれずに判定している」等と報道さ
れたり、そう言う関係者もいますが、現場の認定審査を知らない者の発言と
思いますし、現実にはこの禁止条項は廃止されていませんし、判定に大きな
影響力を持っています。
 そして一次判定のかなりの部分は認定調査員による「調査項目の選択枝の
選択チェック」に左右されます。主治医意見書や特記事項を考慮した二次判
定もそれなりにウエイトはありますが、今の認定システムは「調査員」によ
って決まってしまうシステムであると言って良いと思います。
 しかし、一次判定ソフトは、すでにご存じのように1項目のみの変更で
逆転を起こす例もかなり報告されています。さらに選択枝の組合せによる逆
転があります。2項目軽く1項目重くて逆転することもあります。
 従って、ソフトの欠陥は知っていたとしても、調査時の調査員も、認定の
現場では審査員も、ほとんどの人が気付くことはありません。
 もし、認定調査書提出前にシミュレーションを行いつつ調査項目の選択
項目をチェックするというワザを持った調査員なら、申請者の身体障害の入
力に何も不正のチェックを行わずとも一次判定を変えられると言う事でもあ
ります。
 そしてこのような調査は認定審査会の場で問題になることはないと思いま
す。
 この一次判定の矛盾は、認定制度に関わっている人でも現場で実際に申請
者の状態を理解してシミュレーションしたものでないと、あまり実感として
感じられないのが現実です。
 調査員も、認定審査員でも、通常の調査や認定審査を行っていれば、一次
判定の矛盾はあまり認識していない者も多くこれが認定審査の怖い所です。

 だから、こんなソフトでも「約8割の判定が一致しているソフトだから、
あまり文句を言わずに、このまま続ければいい」「始まった制度だからこれ
以上混乱させるな」と言うような反論も見られているのです。  
 しかし、このまま続けて行けば、必ずどこかで取り返しの付かない矛盾が
明らかになると思います。

 一般の調査員はこれを意識することなく「一次判定の調査」を行っている
ことが多いのだが、前述のようにそれを理解し意識した調査員も出現してい
るようです。
 しかしこれには、「申請者のためにシミュレーションまで行って、意識
した調査を行った調査員」と、「自分の施設のために有利な判定を期待して
調査をした調査員」があり、前者は要介護認定の範囲内で申請者に有利な調
査を行ったと言うことで責められる問題ではないが、主治医と調査員の「寝
たきり度・痴呆度」で認定を行うということは主治医と調査員が同一施設な
らば、幾らでも申請者の内容を操作調整できることでもあります。 
両者が意識して「寝たきり度・痴呆度」をチェックすれば判定は幾らでも変
えられることになるのです。

現実にそれが問題となった事例も報告されるようになったし、むしろ最近の
認定審査会では後者の方が多いような印象を持っています。
 このように調査員と主治医が「寝たきり度・痴呆度」の調整を行って提出
されれば認定審査会では二次判定の変更はほとんど不可能です。
 ただ、これを作為的に行った調査だと断定する事は一次判定のソフト自体
が欠陥だらけなので難しいことは言うまでもありません。
 要介護認定の原則や一次判定の欠陥を知らねばならないが、裏技を知りす
ぎた調査員の行った調査結果での一次判定はだれも変えられぬと言う事も知
らねばなりません。
 そしてそれを防ぐ唯一の手だては、自治体に十分なケアマネの補充が出来
たなら、せめて認定調査員の民間委託を禁止することしかないと思います。
 全ての例の調査を自治体の十分に教育された調査員が公平に調査出来るよ
うにすべきです。福祉産業として営利を目的に営業されることが可能な介護
保険制度では、やはり最低の歯止めとして、調査員の同一事業所や施設を禁
ずる事くらい作っておく必要はあると考えるが、現実には難しい問題のよう
です。

2.自立の認定の苦悩
 認定審査会で「非該当・自立」の結果を出すときには我々審査員はかなり
苦悩します。
 「自立」と言うことは申請者は保険料を納めていながら、今後その介護
サービスは受けられないと言うことであり、すでに今まで色んなサービス
を受けていた方にすれば介護保険制度からは見捨てると言うことなのです。

 これにも色んな捉え方はあると思います。
 良く話題になっているディケアやディサービスに通っている元気なお年
寄りにすれば、『認定審査で「自立」とされたと言うことは、今受けている
これらのサービスは過剰なので必要はない』のも事実だし、こんな方たちも
多かったようです。
 現実にカラオケや編み物教室などのつもりでデイに通っている方も多く
知っています。この中には、申請の時点で「だめで元々ですが、施設から申
請するように言われたので意見書を書いてください」と頼まれた方も多く
あります。この方達は万一「非該当・自立」の判定結果となっても差し向き
の生活や介護には何ら支障はありません。
 しかし、独居老人や介護者の共働きなどで日中には独居となる虚弱老人も
たくさんおられます。在宅での閉じこもりが、痴呆の誘因となることもあり、
これまで週1 回でもディサービスに通うことが閉じこもりを防いでいた場合
もあるでしょう。そんな老人も「自立」ではサービスを止めなければならな
いのです。
 また、介護保険の認定では「自立」としかならないが、現在、生活介助の
ホームヘルパー派遣で何とか在宅で生活をしておられる「心臓や呼吸器など
疾患を持ったお年寄りや独居、住宅環境の悪い老人」では、ホームヘルプを
外されたらたちまち日常生活が出来なくなる方たちがいるのも事実です。
 こんな方たちには今受けているサービスは外せないと思います。

 認定審査会ではいつも最後に「今受けているサービス」をチェックする
ようにはしているが、本当はこれで判定を変えることは出来ないので悩ん
でいるのです。
 要介護認定制度が身体障害の介護に重きを置き、内臓疾患をもった高齢者
に配慮が足らないことが問題であり、今後検討を行って欲しいテーマです。

 また現行の老人福祉で施設入所などを決める措置制度では、福祉の専門家
たちは本人の家族や住宅の事情も考慮しながら認定をしていました。介護保
険制度ではこれらの生活環境を全て無視しなくてはなりません。一人暮らし
のお年寄りには厳しい介護保険だと思いますし、概況調査を判定に取り入れ
ることも改善すべき項目だと思っています。

 自立と判定された場合にどうしたらよいのかは、今後の行政の問題ですが、
一般的な行政の考えは前者の救済の「サービスセンター」などの「はこもの」
を作ることが多いようです。ディケア・ディサービスを外された元気なお年
寄りの方の憩いの場を提供することで、現実に私の町でも設置される事が決
まりました。
 これ自体悪いことではありませんが、もっと困っている後者のホームヘル
パー派遣などは今後どうなるのでしょうか。疾患を持った「自立」の方のホー
ムヘルプも積極的に援助するという自治体は多くありません。
 と言うことは、二次判定で考慮するしかないのでしょうか。

 そして、「自立」認定の人の為だけに、この時期に新たな施設を建設し、
人員を配置するセンターを建設するくらいなら、例えば、自立判定でも今の
通所サービスやホームヘルプサービスを利用したい人には、例えば自己負担
を2割か3割負担として利用できるようにする方が良いのではないかとも考え
ています。
 医療保険でも負担割合は異なる事があるのである、介護保険で保険料を
納めていながら、「自立」認定で介護サービスを受けられなくするよりまし
ではないかと思います。
                   平成12年1月10日 
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○資料
「要介護状態区分の変更等の際に勘案しない事項について」
 二次判定での変更禁止事項を示した通達であり、認定審査では悪評高く要
介護認定の改善にはまずこの通達の廃止が叫ばれています。
いろんな資料で紹介されているのでここでは要約だけ示す。

要介護状態区分の変更等の際に勘案しない事項について  
 3.障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)、痴呆性老人の日常生活自立度、
中間評価項目の要介護状態区分別平均得点等の勘案を行うこととしているが、
以下に掲げる事項を勘案して基本調査の調査結果の一部修正や一次判定の結
果の変更を行うことはできない。
中略

介護に要する時間とは直接的に関係しない事項
 (1)年齢
 (2)長時間を要するが自立している行為
客観化できない心身の状況
 (1)本人の意欲の有無
心身の状況以外の状況
 (1)施設入所・在宅の別、住宅環境
  施設入所しているか又は在宅であるか、あるいは審査対象者の住宅
環境を理由として一次判定の結果の変更を行うことはできない。
 (2)家族介護者の有無
  家族介護者の有無を根拠として一次判定の結果の変更を行うことは
できない。
 (3)抽象的な介護の必要性
  特記事項又は主治医意見書に、「介護の必要性が高い」等の抽象的
な介護の必要性に関する記載のみがあり、具体的な状況に関する記載が
ない場合は、その内容を理由として一次判定の結果の変更を行うことは
できない。
 (4)本人の希望
  特記事項又は主治医意見書に、「本人は要介護認定を希望している」
等の記載があることを理由として一次判定の結果の変更を行うことはで
きない。
 (5)現に受けているサービス
  特記事項又は主治医意見書に、「現に介護サービスを受けている」
等の記載があることを理由として一次判定の結果の変更を行うことはで
きない。
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要するに生活環境・住居環境・介護者の有無・年齢などは判定の際に勘案
してはならないと言う通達である。
介護保険とはこんな事こそ勘案すべきと思うのは間違いでしょうか。
以前の福祉の時代にはまずこれを勘案して入所の基準などにしていたはず
です。
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参考サイト
インターネットの情報
 介護保険制度ウォッチング(土肥徳秀先生のホームページ)
  http://www.mars.dti.ne.jp/~doi/index.html
 尾形医院ホームページ 
  http://www.o-ga-ta.or.jp/2000/
 Dr.ハッシーのホームページ
  http://www.wind.ne.jp/hassii/
  「状態像の例」での逆転現象
  http://www3.wind.ne.jp/hassii/kaigo/gyakuten/index.html
 どんたくアカデミー
  http://village.infoweb.ne.jp/~fwik7750/index.htm
 日医総研ホームページ
  http://www.jmari.med.or.jp/
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一次判定の矛盾・問題点は次回に続きます
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【WEB】   http://homepage1.nifty.com/hone2/kakari/
  ご意見・ご感想等ございましたら、以下のメールアドレスへ
【MAIL】   nagashi@t-cnet.or.jp
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購読のお申し込みと削除は、上記のホームページから直接出来ます。また過
去に発行したメールマガジンはこのホームページで参照可能です。
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 最近、読者の皆様から編集部宛にいろんなメールをいただいております。皆
様からのご意見も参考にして、メルマガ「かかりつけ医通信」の紙面づくりに
生かして行きたいと考えておりますので、どうぞご意見をお寄せ下さい。また
皆様から寄せられたメールも、出来るだけ紙面でご紹介していきたいと考えて
おりますので、事前の承諾なしにメルマガに掲載させていただく場合がござい
ます事をご了解下さい。匿名などのご希望や、掲載を望まれない場合には、そ
の旨御明記願います。
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【発行】「かかりつけ医通信」発行委員会
 当委員会は、趣旨に賛同した医師による、自発的な会です。
 他の既存の団体や会社に所属しているものではありません。
【編集】
(委員長)長島公之:長島整形外科(栃木県) 整形外科医
      http://www.t-cnet.or.jp/~kotui/
(委 員)
 安藤潔:荒川医院(東京都) 内科医
  http://www2u.biglobe.ne.jp/~andoh/
 本田忠:本田整形外科クリニック(青森県) 整外外科医
  http://www.orth.or.jp/
 吉岡春紀:玖珂中央病院(山口県) 内科医
  http://www.urban.ne.jp/home/kugahosp/index.html
 吉村研:吉村内科(和歌山県) 内科医
  http://www.nnc.or.jp/~ken
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