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 かかりつけ医通信     第21号   2002年2月20日発行
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    健康・医療のお役立ち情報・・・医療の現場から

▼目次▼
1)「うがい」でインフルエンザの予防はできるのか
2)4月診療報酬改定の話題
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1)「うがい」でインフルエンザの予防はできるのか

 2月になって、各地で散発的なインフルエンザの発生報告がみられますし、一
部の地域では学級閉鎖なども行われているようです。でも全国的に見ると今の
ところ大きな流行はなく、このまま経過してくれればいいなと思っています。
 特に日常診療の現場での印象は、高齢者のインフルエンザが少ないように感
 じています。昨年末からの高齢者への予防接種のお陰なら良いのですが、も
う少し経過を見る必要はありそうですね。
 予防接種の有効性についての大規模な臨床治験も行われていますので、結果
も出ることを期待しましょう。
 さて。この時期テレビの報道などでは、学童のうがいや手洗いの場面を写し
ながら「かぜの季節です。かぜの予防には外から帰ったら、うがい・手洗いを
励行しましょう」と勧めています。
 平成13年度版の国立感染症研究所感染症情報センターの
http://www.mhlw.go.jp/houdou/0111/h1112-1a.html
「インフルエンザQ&A 」でも「外出時のマスクや帰宅時のうがい、手洗いは、
かぜの予防と併せておすすめします。」と書いてあります。我々医師も、よく
そんな指導をしていますし、インフルエンザの予防マニュアルには必ず書いて
あることです。

ところが「うがい」は本当に「かぜの予防」に効き目があるのでしょうか。
こんな疑問が、先日臨床医の間のメーリングリストで話題になりました。

「うがい」と「かぜ・インフルエンザ」でインターネットで検索すると色んな
意見があります。
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土川先生の「医学常識のうそ・ほんと」では、
http://www.nms.co.jp/uso/uso.html

○「インフルエンザの予防にうがいをする事は、効果がある?」
 「インフルエンザやかぜの予防に「うがい」がよくあげられますが、実際ど
の程度の効果があるかご存じですか。
 インフルエンザのウイルスは気道の粘膜に取り付くと約20分で細胞の中に
取り込まれてしまいます。また、インフルエンザのウイルスはのどの粘膜より
も鼻の粘膜から高頻度に検出されます。20分おきにうがいをすることは現実
的とは言えず、また、鼻粘膜はうがいで洗い落とすことができませんので、残
念ながらうがいの効果は限られていると思われます。
 一方、インフルエンザのウイルスは手や顔、衣類等にも付着します。手で目
をこすったり、鼻をいじったりすることも感染経路の一つですので、帰宅後に
石鹸で手や顔を洗うことは、意外と効果的です。」

と、インフルエンザの予防としての「うがい」には否定的です。
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一方民間のページには「うがい」の効果を宣伝しているものもあります
インフルエンザ予防にお茶でうがいが効果的
http://www.nakanoen.co.jp/column/influ.htm
http://www.edu-c.pref.kumamoto.jp/es/seiwasyo/hokenn/egao16.htm

「最近インフルエンザが全国的に流行っているようですが、皆さんは大丈夫で
すか?このインフルエンザの予防にもお茶が効くそうです。
 お茶の中には、みなさんもおぼえてしまったかと思いますが、「カテキン」
という成分が入っています。このカテキンがインフルエンザの予防にも一役か
っているのです。
 お茶のカテキンは、茶ポリフェノールといって、皆さんが普通に飲んでいる
お茶の100分の1というきわめて薄い濃度でもインフルエンザウイルスの増殖を
完全に阻止してしまうそうです。」

 として、「うがい」特に、お茶での「うがい」が予防効果有りとしていますが、
臨床データはありません。
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なぜ「うがい」が必要か
http://www.saraya.com/touchfree/ugai.htm
「アンケート調査を用いて、うがいの実施率とかぜの罹患率の関係を調べた報告が
あります (1996年)。うがいを励行したグループのかぜにかかった人の割合は、
うがいを励行した期間中ずっと対照グループよりも低く抑えられました。また、
うがい液はかぜをひく場所(鼻咽腔)には届かないものの、うがいの時のえんげ運動
(飲み込み)が、かぜの予防に効果的であるという説もあります。」

こんな、メーカーのホームページもありましたが、やはりアンケート調査程度で
厳格な調査ではありません。
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またメーリングリストの多くの専門家の間でも、「うがい」そのものが「かぜ」
や「インフルエンザ」の予防に効果があるという意見は出ませんでした。
まして「うがい」の種類による予防効果も期待できないと思います。
また欧米に留学中の医師からの報告でも、欧米では風邪の予防に「うがい」を
する習慣はないようですし、予防の為のうがい薬も市販されていないとのこと
です。
なんと言っても、インフルエンザはウイルス感染ですから、口や鼻から感染す
るわけですし、その感染もウイルスが入って20-30分で完成されるなら、口腔
内の「うがい」だけで予防できるはずはないのが本当のところでしょう。

最後にこんな面白いページを紹介します。
http://square.umin.ac.jp/~massie-tmd/majinai.html
「もし、こんなに簡単で経済的な方法で風邪という人類最大の疫病を防げるん
だったら、これはジェンナーの種痘を上回るニュースだよ。”うがい”の有効
性が証明できれば New England Journal of Medicineに絶対論文が載る。NEJM
に論文が載るなんてしみったれた話にとどまらない。プリオン病なんて100万人
に一人の治りもしない病気の病原体を見つけただけでノーベル賞がもらえるん
だぜ、風邪の予防はどんな病気の予防よりも多くの人に幸福をもたらし、経済
効果もばく大だから、ストックホルム行きの切符を予約したも同然だ。」
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かかりつけ医通信では、「うがい」そのものを否定しているわけではありませ
ん。咽頭炎などの症状のあるときには、ある程度うがいで改善しますし、慢性
呼吸不全の方の定期的なうがいは必要な事もあります。インフルエンザやかぜ
などの予防効果としての「うがい」の効果は、残念ながら限定的と思います。

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2)4月からの診療報酬改定案について

 厚生労働省は1月30日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)で、4月
に実施を予定している診療報酬の主要な改定項目の具体案を提示しました。国
会での与野党・自民党内の、サラリーマン本人の3割負担をめぐる駆け引きとは
別に中医協では4月からの診療報酬改定の作業が進められています。

中医協とは
 中医協とは厚労省の諮問機関で2年に1度大きな改定が行われる際に診療報酬
改定などの審議を行う機関です。
協議会の委員構成は
 1.健康保険、船員保険及び国民健康保険の保険者並びに被保険者、
  事業主及び船舶所有者を代表する委員 8人
 2.医師、歯科医師及び薬剤師を代表する委員 8人
 3.公益を代表する委員 4人
 4.専門委員8人
の計28人で構成されています。
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今回の主な改定は診療報酬を全体で2.7%引き下げることであり、その内容は
診療報酬本体から1.3%、薬価から1.4%、合計2.7%の引き下げを行うものです。

具体的な内容については
○長期療養の入院基本料等の特定療養費化
 「結核、精神疾患、難病の患者」などを除き入院医療の必要性が低いが患者側
の事情により入院期間が6ケ月を超えるものについては、入院基本料等が特定療
養費化されます。また患者が入院する際、入院履歴を申し出るか、退院証明書を
提示しなければならないことも盛り込まれました。
 これは一般病院だけでなく、療養型病床にまで適応され「社会的入院の排除」
という名目ですが、その受け皿となる介護施設の不足や都道府県格差をそのまま
にして、介護療養型医療施設なら入所可能、医療保険の療養型病床なら「社会的
入院」とする事自体が理解できません。
 まず受け皿の確保が第一で、その後急性期・慢性期の入院システム全体の見直
しなど行ってからでないと、自己負担の払えない老人はどこへ行けと言うのでし
ょうか。
http://www.urban.ne.jp/home/haruki3/ryouyou6.html

○再診料・外来診療料での「月内逓減制」の導入
 多数回受診を抑制するため、受診回数が増えると点数が下がる制度を新たに
設ける事ですが、点数が下がるのですから受診抑制にはならずあまり効果は期
待できないと思います。

○医療安全管理体制未整備減算の新設
 安全対策のための指針や院内報告体制の整備、安全管理のための委員会や職
員研修の開催といった要件を満たさない場合、入院基本料などを減算する。院
内感染対策委員会にしろ、入院時計画にしろ、以前の加算方式から、やってい
ない場合の「減算」となっていることが問題です。

○処方せん料の引き下げ
 医薬分業が広まってきているとの認識に基づき、処方せん料を引き下げる。
ただし、後発医薬品の使用を促進するため、一般名処方とその他の処方の区分
を設け、一般名処方の点数を高めに設定する。言うことは簡単ですが、現実に
処方するとき一般名処方と後発品を同時に処方した場合など、運用できるかど
うか問題です。

○手術の施設基準設定
 一定以上の難易度および点数単価の手術について、年間症例数等の一定の要
件を満たす施設と満たさない施設について、手術料を別に設定する。上記基準
を満たさない施設においては、手術料について点数を引き下げる。この規定は
手術数の少ない単科病院の点数を引き下げる事で大病院優先の方針であり、中
小病院の手術をしにくくするもので、地域医療に携わっている単科外科での
手術を無視した改悪といえます。

○一般病棟入院基本料の要件である平均在院日数の短縮
 算定要件である平均在院日数を、一般病棟入院基本料1では25日以内から21
日以内 へ、同2では28日以内から24日以内へ、それぞれ変更する。急性期病院
加算及び急性期特定病院加算においても、20日以内から16日以内へと改める。
平均在院日数の規定は、ますます必要な入院を排除してしまい、患者さんは早
く退院しなければいけなくなります。平均在院日数の算定も必要でしょうが、
どうしても長期入院が必要な場合はあります。そんな患者さんも無視してしまう
のが平均在院日数の縛りです。

○薬剤の長期投与制限の原則廃止
 これまで一部の医薬品を除き、投与期間は14日間までだったが、内服薬、外
用薬、注射薬のいずれにおいても、投与日数の制限を原則として廃止する。た
だし、麻薬や向精神薬、薬価基準収載から1年以内の新医薬品については、14
日分を限度とする。

そのほかにも
○老人慢性疾患外来総合診療料(外総診)等の見直し
 老人の包括化医療費では医療費削減にならなかったので、これを中止すると
いう、勝手な解釈です。
○205円ルールの見直し
○紹介率の計算方法の見直し
○急性期入院医療にかかる評価の見直し 急性期特定病院加算の設定
○夜間患者体制の評価の見直し
○悪性腫瘍患者に対する診療の評価
○新生児の集中治療管理に係る評価の見直し
 新生児入院医療管理加算(入院基本料加算)の新設
○へき地・離島における遠隔診療に係る評価
などいろんな項目が提案されています。
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 各項目は提示案ですので、これからの中医協の協議で変わるものと思います
がどの項目を取り上げても、医療費削減のための診療報酬改定案であり、患者
の自己負担増と診療報酬の切り下げといういつもながらのやり方でその帳尻を
合わせようとしているに過ぎません。医療の抜本的な改革案ではなくなってし
まっています。特に今回は診療報酬はマイナス改定と決まっており、この中医
協への提案もどこを減らすかの議論しかなされていませんし、医療制度改革へ
の、行政のスタンスがコロコロ変わることが問題です。

 例えば、薬剤の長期投与制限廃止にしても、これまで一部の医薬品を除き、
投与期間は14日間まででしたが、4月からは「内服薬、外用薬、注射薬のいずれ
においても、投与日数の制限を原則として廃止する。ただし、麻薬や向精神薬、
薬価基準収載から1年以内の新医薬品については、14日分を限度とする」とな
っています。現在は医師が患者さんの事を考えても、薬の種類・病名・発売か
らの経過など色んな縛りがあり長期投与を行うことが出来にくくしていた項目
です。また同じ薬でも病名が慢性胃炎なら14日、胃潰瘍なら30日投与可能と言
った矛盾や、多剤のうち一つでも30日投与ができねばすべて30日投与はできま
せんでした。そして問題は、これに違反すれば「不正請求」として減額されて
いたことです。3月までは「不正請求」・4月からは「問題なし」と割り切って
良いのでしょうか。原則的に14日投与と決め、長期投与制限を継続してきた事
には何らかの目的があったはずです。その事は議論せずそれをただ医療費削減
のためと言って4月から制限廃止にするのです。何かすっきりしません。

 同じようなスタンスの厚労省の不明瞭な姿勢が医薬分業にも言えます。医薬
を分業し薬剤師による薬剤管理や調剤の説明・薬剤師の確立・医師から薬価差
を排除し処方乱用の制限など、医薬分業のメリットは大きく、欧米では常識と
して数年前まではさかんに院外処方を勧めてきたはずです。ところが医薬分業
が進んでも薬剤料が思ったより減らない、面倒だと患者の評判もあまりよくな
い、患者負担は増える。そして医療費は減らない、むしろ薬剤関係の総額は上
がっている。と言うことで、最近は医薬分業自体を否定する論文も多くなり、
医療費抑制には医薬分業は馴染まないと言われています。これも最初からわか
っていたはずですし本来の医療制度の中で医薬分業は、どうするのかを無視し
て、医療費削減だけでころっと方針を変えてしまう今の厚労省の医療制度改革
には、このまま従うわけに行かないのではないでしょうか。

 不況のなかで、患者さんにとっても、医療機関にとっても厳しい改定となり
ます。願わくば合理的な改定になればよいのですが、いささか不合理な点や、
問題の多い改定となります。今月中には新しい診療報酬制度が出来上がると思
いますが、医療機関への通達は3月下旬になります。医療機関ではそれから4月
はじめまでに対応しなくてはならないのです。2年に1回の行事ですが、むなし
さだけを感じています。
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