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 かかりつけ医通信     第18号   2002年1月11日発行
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    健康・医療のお役立ち情報・・・医療の現場から

▼目次▼
1)国民を守るために、代替療法の科学的評価を
2)老人医療について-1-
   老人医療費と一般医療費の違い
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国民を守るために、代替療法の科学的評価を
●柔道整復師(整骨、接骨、ほねつぎ)とカイロプラクティック
 ★柔道整復師
  『柔整師の療養費払いについて』
 ★カイロプラクティック(カイロ)
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老人医療について-1-
 老人医療費と一般医療費の違い
●包括化医療費
●外来の包括化医療費
  老人慢性疾患外来総合診療料(外総診)とは
●入院の包括化医療費
  一般病棟の老人長期入院患者の取り扱い
   なぜ老人は一般病棟をすぐに追い出されるのか
  老人の療養型病床入院費用
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1)国民を守るために、代替療法の科学的評価を

 テレビのワイドショー、週刊誌、健康雑誌などで、毎日のように、さまざまな健康
食品や民間療法などの「代替療法」が取り上げられています。その中には、医学的常
識から見て、かえって体に害がある、あるいは、不当に高価であると思われるものも
少なくありません。しかし、マスコミで伝えられると、頭から信用してしまう人も多
いようです。
 その結果、一部の代替療法による健康被害、金銭的な被害が起こっています。
 このような状況に対し、今までは、日本の医療界は、不快感は抱きながらも、「無
視」をする態度をとってきました。しかし、これからは、国民を被害から守るために、
きちんと対処すべきだと思います。例えば、米国医師会では、昔から、健康詐欺やい
かさま医療に関する調査を行い、医師、マスコミ、一般大衆からの疑問に答えてきま
した。また、「医師として何を推薦できるのか」「何が有効で何が怪しいのか」との
視点から、代替療法を医学的、科学的に検証した本も出しています。米国の国立衛生
研究所の中には、代替医療部門が設立され、数千万ドルの研究予算で科学的な評価を
行っています。
 日本でも、国民を被害から守るため、代替療法を科学的に評価し、その効果、副作
用、コストパフォーマンスについての情報を、医師や国民に知らせる活動を、行政、
各学会、医師会などが協力し、行う必要があると思います。
 今回はそのうち柔道整復師(整骨、接骨、ほねつぎ)とカイロプラクティックに
ついて説明します。
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●柔道整復師(整骨、接骨、ほねつぎ)とカイロプラクティック

 両方とも、医師である整形外科医とは異なる医療類似行為ですが、柔道
整復師の資格が法律で認められているのに対し、カイロプラクティックの
資格は、日本では法律で認められていません。
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★柔道整復師(柔整師)
 整骨、接骨、ほねつぎは皆同じ意味です。
 法で認められた医業類似行為です。

 適応は、打撲、捻挫、脱臼、骨折ですが、脱臼、骨折については医師の診察を
受けるまで放置すれば生命又は身体に重大な危害をきたす恐れのある止むを得な
い応急の場合を除き、医師の同意が必要となっています。
 しかし応急処置が済んだら整形外科の専門医へ送り、診察した医師が、その後
の経過を柔整師がみてもよいという同意を与えた場合のみ、取り扱うことができ
ます。老人の骨粗鬆症、膝や腰の変形症、リウマチなどの内因性の慢性疾患は適
応外です。
 もちろんレントゲンを撮ったり、ギブスを巻いたり、薬を出したり、注射をし
たりすることはできません。
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『柔整師の療養費払いについて』
 柔整師の施術に要した費用の支払いは、一般の保険医療機関での支払いと一見同
じようですが実はその仕組は大きく異なります。

 柔整師への患者の支払いは、はり、灸師等と同様に「療養費払い」といい、患者
が療養に要した費用を施術者に先ず支払い、保険者等にその支払った額を請求し、
保険者がその内容を審査の上、患者に支払うのが原則です。しかし、柔整師の施術
に係わる療養費の支給については、都道府県知事等と柔整師の団体との間の協定に
基づき、患者が療養費の受領を柔整師に委任することが認められています。これを
『受領委任払い』といいます。すなわち、柔整師が施術を行った場合、柔整師は、
施術料金のうち、患者負担分については患者に請求し、残りの施術料金については、
患者からの受領委任に基づいて、柔道整復施術療養費支給申請書により各保険者等
に対して請求することになっています。受領委任は、請求金額が記載された申請書
に、患者の自筆で住所、氏名等を記入し、押印して行うこととされています。
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★カイロプラクティック(カイロ)

 日本では資格が法的に認められておらず、従って施術者のレベルもまちまちで
あり、医学的効果についても科学的評価はいまだ定まっていません。
 同療法による事故を未然に防止するために下記の4項目の厚生省通達がなされて
います。(平成3 年6月28日 医事第58号)

 1.禁忌対象疾患の認識
「カイロ」療法の対象とすることが適当でない疾患としては、一般には腫瘍性、
出血性、感染性疾患、リウマチ、筋萎縮性疾患、心疾患等とされているが、この
ほか徒手調整の手技によって症状を悪化しうる頻度の高い疾患、例えば、椎間板
ヘルニア、後縦靱帯骨化症、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、骨粗鬆症、環軸椎亜
脱臼、不安定脊椎、側弯症、二分脊椎症、脊椎すべり症などなど明確な診断がな
されているものについては、本療法の.対象とすることは適当ではない。

 2.一部の危険な手技の禁止
 頚椎に対して急激な回転進展操作を加えるスラスト法は、患者の身体に損傷を加
える危険が大きいため、こうした危険の高い行為は禁止する。

 3.適切な医療受療の遅延防止長期間あるいは頻回の「カイロ」療法によっても症状
が憎悪する場合はもとより、腰痛等の症状が軽減、消失しない場合には、施術を中止
して、速やかに医療機関で精査を受けること。

 4.誇大広告の規制
 カイロ療法に関して行われている誇大広告、とりわけ、がんの治療等医学的有効性
をうたった広告については、法に基づく規制の対象になる

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2)老人医療について-1-
 老人医療費と一般医療費の違い

 読者の皆さんの中には、医療費は一般も老人も同じだと考えている方もある
かも知れません。医療費の元になる診療報酬制度では一般の医療費と老人医療
費はかなり違っていますし、出来高制度と包括制度という点では、すでに老人
の医療費の多くは外来も入院も、包括化が進められています。
2回に分けて老人医療について説明します。
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●包括化医療費
 医療費の包括化とは、診察料・検査料・薬剤料や入院では入院料・看護料など
全て含んだ診療報酬制度です。
 アメリカなどで行われているDRG/PPSとは病気の種類による診療費の包括化
ですが、日本の場合、病気の種類や合併症、治療の内容などは無視した、老人と
言うだけで包括化されてしまう点数制度があるのです。
 現在一般診療には、包括化は一部の検査項目の包括化以外にはありませんが、
老人医療費を削減するために老人医療費の包括化は進んでいます。
 しかし、医療費の削減の為に行っている包括化が、厚労省の思惑通りに進ま
ず、現実には包括化の政策誘導のため、むしろ老人医療費は増加している点も
指摘されています。
それと同時に、厳しい包括化は患者・家族の苦しみを増し、医師と患者の信頼
関係をも崩壊させてしまう現実は、医療費を減らすことだけが仕事の役人には
理解されていない現実だと思います。
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●外来の包括化医療費

老人慢性疾患外来総合診療料(外総診)
 老人の外来診療では、悪性新生物を除く老人慢性疾患生活指導料の対象疾患
を主病とする老人外来患者を対象に外総診という包括化があります。
 これは、診療所・200床以下の病院の外来診療で主に内科疾患の患者さんに
算定されています。
 算定点数は、院外処方を発行する場合  1回735点 月2回を限度
       院外処方を発行しない場合 月1回目の場合 1035点
                    月2回目の場合  735点
 となっており、院外処方の有無で分けられています。
 点とは診療報酬を請求するときの決まりで1点10円として換算します。
 院外処方を行わない場合、検査・投薬・注射・生活指導などは包括化されて
おり、どんな薬を処方されても、どんな検査を受けても点数は変わりません。
逆に言えば包括化とは何をしなくても同じ医療費になる矛盾を含んでいます。
但し再診料、レントゲン検査などの画像診断、リハビリは包括化されていませ
ん。

 外総診が行われているのか、出来高払いなのかは患者さんには分かり難いと
思います。一人の患者さんに複数の医療機関で外総診は算定できませんので、
複数の医療機関に通院されている場合、おもに内科のかかりつけ医が外総診を
選択し、その他の医療機関では出来高払いとなります。

 外総診の対象となる疾患は、老人慢性疾患生活指導料の算定疾患と決められ
ており、ほとんどの内科系疾患は網羅されていますが血液疾患・腎疾患・骨粗鬆
症・リウマチ・うつ病などは対象から外されています。
 また検査の包括化では、画像診断とされるレントゲン検査やCT検査・MRI等は
算定できますが、超音波(エコー)検査・内視鏡検査・心電図・ホルター心電図な
どは包括化され、例えば胃透視は算定でき、胃内視鏡検査は算定できないという
事です。どうして画像関係だけが包括化から外れたのか、その理由は明確ではあ
りません。
 またリハビリだけは包括化から外されています。これも多くの重要な処置が
包括化されている中でリハビリだけが残ったのかは政治的判断だと思います。
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●入院の包括化医療費

 入院については老人の人権を無視した包括化が進められています。
 この中で一般病院の3ヶ月の包括化は患者にも家族にも・医療現場にも厳しい
規定です。

●一般病棟の老人長期入院患者の取り扱いについて
 「一般病棟に90日を超えて入院している老人患者は「特定患者」として他の
患者と区別され、検査・注射・厚生大臣が定める処置を包括した老人特定入院
基本料(937点または 794点)を算定する。上記の場合であっても厚生大臣が定
める状態の患者については特定患者から除外され、一般病棟入院基本料を算定
する。」と定められ、老人患者の場合、病気の種類や合併症、過去の病歴などを
問わず、老人と言うだけで包括化されてしまう制度なのです。
 一部特殊な抗癌剤治療を行ったり、意識障害のひどい状態、人工呼吸器を使用
している場合、人工透析を受けている場合などは、この基準から外されますが、
老人患者は一般病院には3ヶ月以上入院できない、言い換えれば老人は3ヶ月以
上は正当な医療を認めないというシステムなのです。

●なぜ老人は一般病棟をすぐに追い出されるのか
 そして入院費用は検査、治療も包括化されており、しかも点数は1日937点で
すから、月にして28万円程度、食費などを加えても35万円程度で、介護保険制
度の特別養護老人ホームの報酬程度に設定されているのです。大学病院でも救急
病院でも同じなのです。
 当然一般病棟ではそんな安い点数で入院管理はできませんので、主治医やケー
スワーカーから退院を勧めれることになります。
 また一般病棟では平均在院日数という入院期間の縛りがあり、その病院の入院
基本料にも影響しますので長期入院が予想される場合には救急病院でも、一般病
院でも老人患者は入院後しばらくすれば転院の勧告が主治医から行われるはずで
す。

 これも老人医療費削減だけを目的に考え出されたシステムですが、このことは
医師と患者・家族の信頼関係を壊してしまっています。長年主治医として信頼し
通院していた患者さんが、病状が悪化し入院しても、その病院では入院治療の継
続が出来なくなり、入院が必要なら別の病院に転院しなければならなくなるので
す。
 そして、このシステムや包括化で、果たして老人医療費が押さえられるかと言
えば、出来ない制度だと思います。脳血管障害や重症の心不全・呼吸不全など長
期入院が必要な状態は、急性期病院からも別の病院に転院させられ、その病院で
は診療は新たな開始となりますし、別の病院からまた別の病院などの「たらい回
し」の現実もありますので、医療費は削減できず、むしろ増加すると思います。
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●老人の療養病棟入院費用
 老人の包括化入院費について、一般病棟の3ヶ月を超える入院以外に、療養病棟
の入院費用があります。

●長期療養型病床群(療養病棟)
 長期療養型病床群という名目で、一般病院の設置基準より一人当たりの病室が
広く、車いすなどの通行に廊下の幅を拡げ、介護しやすい入浴設備ゃ食堂の設置
などができれば、診療費は包括化されていますが、かなり高い入院費となり、こ
の数年政策的誘導で多くの病院が転換しました。元はと言えば一般病棟の社会的
入院を減らすための受け皿で、一部は介護保険制度への転換も考えての誘導でし
た。実際この療養型病床群の一部が介護保険での介護療養型医療施設とし、介護
保険対応に転換しましたが、厚労省の思惑通りの転換にはなっていません。
 病床群という聞き慣れない言葉は、この規定は一般には病院全体や病棟単位が
基本ですが、一部病室単位でも認可されることがあり病床群という言葉が使われ
たようです。今では療養病棟と呼ぶのが普通です。

 ここでの入院費用は療養病棟入院基本料として、看護職員比率・看護婦比率・
看護補助者比率などで7区分され、1日当たりいくらの定められた点数となります。
 例えば、看護職員比率6:1、看護婦2割以上、看護補助比率4:1という病棟
なら、老人入院費は1日1107点となりますので、1ヶ月32万円、そのほか療養病
棟療養環境加算の点数も含めれば35万円程度となります。これに食事療養費1日
2120円が加算され、月のトータルでは41-43万円くらいの診療報酬請求になり
ます。
 介護保険制度での介護療養型医療施設では、要介護度によって1日の報酬額は
異なりますが全体としてはほぼ同じ請求額です。

 療養病棟療養環境加算とは1病室の患者4人以下、病室面積1人あたり6.4平米、
廊下幅2.7m以上、機能訓練室、食堂、浴室などが基準にあえば1日最高105点を
加算するものです。この基準にあわせるため多くの病院ではベット数を減らし、
改築や新築などの設備投資を行っています。
 またこの入院費には入院30日以内の短期加算1日312点、180日以上の長期減
算1日37点もあり、6ヶ月以上の入院では包括化でありながら、入院の月に比べ
ると約10万円も低い設定で厳しい逓減性もとられています。

 これらの入院費用の中にも内服・注射などの治療、検査は包括されています。
なぜか画像診断とリハビリは包括されていません。老人の長期入院の原因となっ
ている色んな処置については、酸素療法・経管栄養・褥瘡処置などの処置も包括
化されています。在宅での酸素療法が行えず療養型病床で酸素療法を受けても酸
素代も請求できませんし、胃瘻や鼻腔からのチューブ栄養も、一般の食費と同じ
で、またチューブの交換も保険請求できません。療養型病床群の中には重症者を
嫌がる施設もあり、従ってこれらの重度の管理と処置を必要とする老人の行き場
がなくなりつつあります。

 これらの老人医療費包括化は、何度も言いますが「老人である」と言うだけで
医療費に差が付けられているのです。

 今、日本でも進められようとしているDRG/PPS (疾患別の分類と定額包括化)、
では疾患によって平均的な医療費が設定されていますが、老人医療費の包括化は
老人と言うだけで、疾病の軽重や合併症の有無は無視して包括化され、場合によ
っては必要な医療が受けられないシステムなのです。
 DRG/PPS の包括化の是非については別の機会に説明したいと思います。
 次回に続きます。
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