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 かかりつけ医通信     第12号   2001年11月27日発行
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    健康・医療のお役立ち情報・・・医療の現場から

▼目次▼
1)災害情報ネットワーク
2)医療制度改革特集号その5
 医療費の支払い制度について
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災害情報ネットワーク
●はじめに
●災害事に必要な情報とは
●災害時の状況
●日頃の準備は
●情報伝達手段は
●災害情報ネットワーク
●システムのポイント
●まとめ
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●はじめに
 我々は、日常、多くの危険に囲まれて生活しています。交通事故、火災、地
震、津波。台風による水害。それらの伝統的な災害に加えて、最近は今回の東
海村の原発事故のごとく新しい災害も発生します。災害はかならず起こるもの
として、日頃から備えておく必要があると思います。
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●災害事に必要な情報とは
 阪神大震災の例を取れば、災害発生時に関係機関および住民等が必要とする
情報は、災害発生からの時間経過とともに推移していきます。
 これらの情報のすべてを、行政機関の責任において提供するのが理想である
が、阪神・淡路大震災の際には約2日遅れたと言われている。そして、その間
の情報は個人の責任の元で行われたものだとも言われている。今後の災害に対
応するための情報発信のしくみとしては、すべての情報を行政の責任の下で発
信するのではなく、個人の責任の下で行われる情報発信をどのような形でサポー
トするか、出来るかといった視点も重要である。いずれにしても、求められる
情報の種類は整理すれば、そう多いものではありません。量的には個人個人で
違うのできめ細かさと膨大な量が要求されます。
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●災害時の状況
1)平常時の組織は機能しない
2)連絡が取れなかった
3)誰かが助けてくれる?
5)緊急物資は手に入る?
 以上のような状況のもとで、具体的に個々の方が以下のようなことをどの様
に考えていくかという問題になってくると思います。
 平時時において、それぞれに可能な限り対処できるようなシステム作り。お
互いの助け合い、自分の身は自分で守るという意識が大切なのでしょう。日頃
から、おたがいの防災意識を高め、災害に強い町作りをすることが大切なので
しょう。たとえば高齢者にやさしい町作りをすれば、それがそのまま防災にも
役立つことになる。
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●日頃の準備は
1)日頃から被害を想定する。住民への衆知。
被害がどの程度になるかを想定しなければ事前対策も緊急時対応対策もたてら
れません。最近は、各地域では以下のような対策が取られつつあるようです。
1−1)斜面カルテ
1−2)ハザードマップ
1−3)道路防災カルテ
1−4)グリーンオアシス
2)初動対応マニュアルが必要
大規模地震が発生した直後には、求められる情報をいかに的確に伝えられるか、
対処できるか、行うべき事項を規定した手順書が必要。項目だけでも決めてあ
ると行動の指針となり、初動対応が違ったものになるでしょう。
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●情報伝達手段は
 情報収集・連絡手段としては、携帯電話、PHS、アマチュア無線、専用回線、
トランシーバーが主流です。衛星通信、インターネットも新しい手段として使
われます。
 それぞれ利点欠点があります。連絡手段には絶対確実というものはなく、連
絡手段の種類を増やすことです。また、自転車・バイクで情報伝達をしたほう
が、電話で悪戦苦闘するより効果的です。また、災害時には既存のシステムの
みでなく、外部から大量の資源(人的、物的)が入り込みます。従って既存の
施設のみの連絡網を前提としたシステムでは役に立たちません。また情報を
何らかの形で末端まで周知させる、効率的な情報連絡網を構築する必要があり
ます。どれだけ毎日の情報を整理して、不特定多数の関係者全員に周知、宣伝
できるかが問われる。小回りが利いて、情報の流れが双方向であり、どこにい
てもコミュニケーションが出来ること。時を選ばずに情報の発信・受信ができ
ること。誰もが対等な立場となれること。行政の境目や国境などがまったく取
り払われ、どこからでも情報を取れることが大切です。あらゆるレベルから総
合的に情報集中させ、公開し、情報交換する場が必要になる。
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●災害情報ネットワーク
災害対応総合情報ネットワークシステム外部仕様検討報告書(厚生省)によれば、
1)インターネットによる情報発信
 阪神・淡路大震災では、情報発信の手段として、インターネット/パソコン
ネットが用いられた。アクセス手段を持たない利用者に対しては、別のボラン
ティアによりFAX等を用いて渡された。
2)システムの機能要件 行政インターネット
 県庁、合同庁舎、関係機関、市役所および避難所となるべき公民館、学校等、
災害時に活躍するであろう機関を、一般のインターネットのような「フラット
でシームレスなネットワーク」で接続する。階層関係に囚われない情報交換が
可能となる。
3)システムの分散化とバックアップ機能
 大規模災害の発生を想定し、一回の災害の発生ではデータが失われないように
、システムおよびデータのバックアップを行う。
4)情報交換の機能
「行政インターネット」によって接続される県庁や市町村、関係機関および住
民等の間でシステムと接続するコンピュータを通じて双方向での情報交換を行
う。ただしコンピュータを持たない住民との情報交換にも配慮し、災害発生時
に住民の避難所や住民との接点となる施設に、市町村等の行政側で端末機等の
機器を設置し、情報交換を可能とする。また、外国人や障害者等のいわゆる災
害弱者にも考慮した、人にやさしい情報交換のインタフェースを実現すること
が重要である。
5)ネットワークの伝送路
 情報を伝送するネットワークの伝送路は災害耐性のあるものである必要がある。
6)多様な手段での情報交換と双方向性
 例えば県主導のBBSとインターネットを連動させ、それぞれの掲示板やメール
をゲートウェイすることで、情報共有を図る必要がある。また、情報の伝達は
一方向でなく、双方向である事が重要である。情報が一方向にのみ伝達される
のでは、住民に対するサービスという意味では不十分である。例えば、問合せ
と返答、要望と回答という形で一対となり双方向でのやり取りが実現する事が
望ましいとなっています。
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●システムのポイント
1)毎日の日報や集計を同じ場所に書き込める体制を作る
 インターネット上の災害情報ページを利用して情報の鮮度をあげる
2)内容はできるだけ具体的なものを  細かい物資情報や状況が最も大切
3)各施設間、組織間の横断的な連絡網の構築に最適
 誰でもみれる、誰でもかける場を作り上げ、そこに集中的に情報を集積する。
情報の質も問われる
4)多数の組織で統一した場所に書くこと
 縦割り行政ではこれが最も大切。また書き込む方のトレーニングを常日頃行う。
各部署で責任者を複数きめ、必ず毎日書かせる。現場では広報が最も大切。
5)情報フォーマットを決める
情報の整合性と何が求められているのか。常に考えること。阪神震災に良く学ぶべき。
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●まとめ
 以上のように、各メディアの特徴をうまく使いわけながら、情報を統合し整
理してかつ同時にそれを皆に無駄無く伝えられるシステム作りが大切と思いま
す。災害情報システムは何も特別なものではなく、日頃から地域のネットワー
クを構築していれば、それがそのまま災害時には相互扶助システムになってい
くということなのでしょうが。現在の技術レベルでは、各分野の同意さえ得ら
れれば、きわめて安価なおそらく数万円で構築できます。インターネットのよ
りいっそうの普及と習熟が待たれます。
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○参考文献
http://www.orth.or.jp/Isikai/content/saigainet.html

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医療費の支払い制度について(その5)
●医療の変化
●医療費の支払い制度について
1)高額医療の財源について
2)まずは内容分析を
●診療報酬制度について
1)医療の原価を出しましょう
●EBMガイドラインはEBMではない
●医療の裁量権の堅持
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●医療の変化
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医療技術の進歩はめざましく、高度医療を扱う病院が増大する一方で、慢性疾
患や老人の在宅医療などの地域医療の中心となる病院や診療所の強化も進んで
いる。こうした、ますます多様化していく国民のニーズに応えるためには、ま
ず医療原価をきちんと把握すべきであり、またそれぞれの医療機関の担うべき
役割や機能をより明確にする必要がある。

 医療機関の合理化。国立病院、大学、自治体病院などの統廃合がはじまりつ
つある。医療機関の機能に応じて、病院と診療所を別の診療報酬体系にするこ
とが必要である。さらに、診療報酬が医療にかかるすべての費用を補填すると
いう考え方にこだわらず、施設や機器設備等の資本関連コストに対して、補助
金や税金といった他の政策手段を積極的に活用することによって、病院機能の
一層の充実を図るべきである

また健保や国保等の弱小の保険者の財政基盤が危うい現在、制度間の不均衡の
是正。保険者の統廃合や事務の合理化は必要である。
http://www.orth.or.jp/seisaku/syutyou/kyuufu.html
保険の給付範囲について
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●医療費の支払い制度について
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1)高額医療の財源について
 移植医療や遺伝子治療など、高額医療の財源をどの様に考えるかというのは
たしかに難しい問題です。小島先生のいわれる、勤務医のコスト意識の無さの
問題もある。しかしすぐ支えきれないから、民間保険に移行という考えではな
くて、まずは高額医療の内容分析をはかる必要があると思います。実際問題、
患者さんを前にして自費だから諦めてくださいとは、なかなかいえないでしょ
う。
2)まずは内容分析を
 高額医療は、データ的には薬剤費と手術料が大部分を占めるというなら、薬
剤費の妥当性や手術料の妥当性(機材の内外価格差)、ホスピタルフイ-の妥当
性(人件費、その他、質の維持にためには、現在十分に診療報酬で補填されて
いない、拡大再生産に回るまでのお金も必要でしょう。)そこらをひっくるめ
た医療原価を、まずだして、その費用負担をどうするか、広く論議いただく必
要がある。

http://www.jcoa.gr.jp/siten/content/resept.html
レセプトから視た医療費の使われ方
http://www.jcoa.gr.jp/content/seimei.html
生命の値段
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●診療報酬制度について
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 DRGは疾患別の標準化というけれど、有り体に言えば行為別でなく、疾患別に
パターン化した包括化でしかない。要するに荒すぎる。200や300の分類
でチェックできるわけがない。これでは医療行為や内容の分析は出来ない医療
の平準化(標準化ではなく)をはかり、オーバーした分は削ると言う、一律上
から押さえる発想だけの診療報酬でしかない。これではコスト計算も甘いし、
「合理的」な医療費の抑制は出来ない。だからアメリカは失敗したんではない
か。
1)医療の原価を出しましょう
 医療の効率化のためには、医療の無駄を除く必要があるわけですが、そのた
めには、点数制度を現在の不充分な出来高と、包括化の最悪の組合わせではな
く、急性期、慢性期を問わず、診療点数をすべて、真の出来高制にして、かつ
診療行為の単価は、できるだけ医療原価を反映した点数にする必要があると思
います。また、診療報酬が、医療にかかるすべての費用を補填するという考え
方にこだわらず、施設や機器設備等の資本関連コストに対して、補助金や税金
といった、他の政策手段を積極的に活用することによって、病院機能の一層の
充実を図るべきであると思います。また健保や国保等の、弱小の保険者の財政
基盤が危うい現在、制度間の不均衡の是正。保険者の統廃合や事務の合理化は、
必要であるとおもいます。厚労省も保険者の体質改善には乗り出しているよう
です。
http://www.orth.or.jp/seisaku/syutyou/hirou.html
点数制度の制度疲労
http://www.orth.or.jp/seisaku/syutyou/dekidaka.html
診療報酬制度を真の出来高制にして医療の質の向上と、透明性を確保しましょう

出来高制は堅持すべきですが、より大切な事は医療の原価を正確に把握する事
かと思います。原価より支払いが高ければ過剰医療になり、支払いが少なけれ
ば過小医療となる。いずれにしても健全な医療とはならない。原価を反映しな
い、包括化の跋扈は医療をゆがめる。内部矛盾が拡大する。それは特に急性期
医療と高齢医療に顕著にでるでしょう。205点という包括化をして、おかし
いというなら、当然DRG/PPSもおかしいことになるのは理の当然。同じ問題が出
る。205点ルールは包括化の良い実験である。
http://www.orth.or.jp/seisaku/syutyou/kyuusei.html
急性期医療は出来高に
http://www.orth.or.jp/seisaku/syutyou/siharai.html
医療費の支払い制度について
 経済に対して医療費が増大しすぎるというが、国内総生産に対する国民医療
費の比率は7.2%で、OECD加盟先進国中21位(97年)という水準に止まっ
ている。
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●EBMガイドラインはEBMではない
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 アメリカの医療におけEBMガイドラインは専門業者が作り、入院の日数まで決
められている。それを保険者が買い取って一律に患者さんに適応する。患者さ
んのためのEBMではなくて、保険会社の経費削減のための、ガイドラインでしか
ない。根拠にのっとった医療というのは、あくまで患者さんの病態にあわせ、
医師がEBMにのっとった文献を提示して、患者さんの同意のもとに治療を行うと
いうものであろう。あくまでケースバイケースで、患者さんの同意のもとに行
う個別的な治療であると考えます。
 定額医療制度(PPS)のもとで、EBMマニュアルにのっとり、機械的審査をすれ
ば、医療現場では委縮診療となり、日本版患者残酷物語が出現する可能性が高
い。DRGのみなら確かに診療の標準化には役立ち、病院の効率化と質の向上には
なりえる制度ではある。しかしPPSと組み合わされることで、結果的に米国では
行き過ぎた医療費抑制策となってしまった。しかも、保険者の力が強くなりす
ぎて、医師の裁量権がなくなってしまった。医療の現場では混乱と委縮診療が
起こったということかと思います。

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●医療の裁量権の堅持
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 プリンストン大学のラインハルト教授は,「誰かから細かく管理されたり常
に干渉されたりすれば,実際に仕事をしている人に反感を抱かせるだけでなく,
その勤労意欲を削ぐだけだということは、医療以外の分野では常識だった。マ
ネジドケアは,こんな簡単なことに気がつくのに10年もかかった」と,マネジ
ドケアの「革命的」決定を揶揄しました。医療にとって必要なのは、まず第一
に、「評価」や「監視」や「管理」ではなく、医療従事者の働きやすい環境を
作ることで、医療従事者の能力を最大限に発揮できるようにするべきである。
技術革新は自由で闊達な環境でのみ行われる。管理強化で生まれるのは委縮診
療だけである。医療現場は荒廃する。マネジドケアの失敗に学びましょう
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次号に続きます
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