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 かかりつけ医通信      第9号   2001年11月 12日発行
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    健康・医療のお役立ち情報・・・医療の現場から

▼目次▼
1)賢い医者のかかり方
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●専門医にきちんとかかること
●むやみに病院を変えないこと(かかりつけ医師を作ってください。)
●正しい病気の知識を入れる
●整形外科疾患の治療体系
●整形外科は各種治療を駆使し体系的治療を行う
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2)医療制度改革特集号その2
医療制度改革について第2弾です。
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●医療費の内訳
●医療の公平性について
●医師の不正請求について
●医師の収入について
●効率性について
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賢い医者のかかり方(特に整形外科疾患について)
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専門医にきちんとかかること
 現代は医師はすべて、専門分化されています。一昔前までの、何でも見てく
れる町のお医者さんというのは、残念ながら、だんだん無理な時代になりまし
た。整形外科に来て、高血圧や心臓の治療をしてくれというのは無理な話しで
す。どの科が、どういう疾患を受持ちにしているのか、はっきり把握しておく
必要があります。ちなみに整形外科とは、骨と関節の外科です。骨折や脱臼は、
もとより、捻挫、切傷。各関節の痛みしびれや腫瘍など四肢と背骨のあらゆる
病気を見ます。理学診療科とは、骨折や、脳梗塞や、脊髄損傷などの機能訓練
を行なうということです。ちなみに美容整形は形成外科です。まったく整形外
科とは関係ありません。
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むやみに病院を変えないこと(かかりつけ医師を作ってください。)
いずれにしても、些細な理由で、医者を次々変えるのは、あまりおすすめでき
ません。何でも相談することです。門をたたかないと、何も出てきません。
 1−2回の診察で、なおらないと決めつけて、次々と病院を変えるのは、あ
まり賢い方法とは言えません。病気の治療体系は病院をかえたからといって、
そうかわるもので はありません。従って、病院を変える人は、なんども最初
から、同じことを繰り返すことになります。お金の無駄遣いです。
 なおらなければ、何度でもかかりつけの医師に相談することです。相談し
なければ、医師も分からないことが多いのです。
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正しい病気の知識を入れる
 また大切なことは、ご自分の努力が必要であると言うことです。受け身の姿
勢で、何ら努力をせずに、薬物治療や、物理療法をうけ、ドクターショッピン
グ(医師を次々に変わること)をし、健康グッズを買いあさるだけでは、事態
は改善されません。整形外科慢性疾患の原因は、老化や、肥満、運動不足が原
因であることが多いわけです。しっかりご自分で病態を正確に把握し、筋力を
鍛え、生活そのものを改善する必要があるわけです。
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整形外科疾患の特徴
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慢性疾患とは?
整形外科疾患は慢性疾患が多いのです。慢性疾患=なおりづらいということです。
最近流行りの言葉に「生活習慣病」という概念があります。日常生活そのもの
のなかに、病気の原因があるわけです。ということは日常生活そのものを変え
ていかないと、なおらないということになります。
 整形外科慢性疾患は肥満と運動不足と老化が最大の原因であることが多いわ
けでたとえば、中年の女性で肥満があって、よく歩く方や、長時間座っている
方は、肩凝りや、腰か膝が痛くなります。これはある意味で当然です。なぜな
ら、10kg重い方は、その数倍の負担を各関節にかけることになるわけです
から。股関節なら安静立位時に体重の3倍。膝関節なら5倍の力がかかってい
ます。また関節と言うのは「骨と骨の連結部分」ですが、関節は「骨と筋肉」
でできています。たとえば膝関節は主に骨と主に大腿四頭筋(大腿前面の筋肉
全部)です。老齢で膝関節の軟骨がすり減った方は、骨と骨の連結部分が壊れ
たわけですから、関節機能を維持するためには骨以外の構成要素である、筋肉
を鍛えることが必要になります。お辞儀をしただけで、腰へは体重の5倍の力
がかかります。腰痛の方は、腹筋と背筋を鍛えないと上半身を支えきれません。
従って痛みも取れないと言うことになります。
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まず様子を見ましょう
 最初に受診された患者さんから「なおりますか?」といきなり聞かれたとき
に、医師から良く出る言葉です。どんな疾患でも治療法は数種類あります。治
療方法はまず、患者さんにとって、ある程度効果があり、かつ簡単な方法から
行います。その後の経過をみながらなおらない方には、別なより効果のある(当
然危険もある程度ともなう)治療に変えていくわけです。その際、各種治療を
ステップ毎に行いながら、「評価」をして、なおらない方のみに治療法を変え
ていくわけです。初めからすべての治療を行う事はありません。この評価期間
が「様子を見る」と言うことです。従って、「様子を見る」ということをより
正確に言えば、「とりあえず簡単な治療からはじめます。それでなおらなけれ
ば、別な治療に移りましょう」従って、いきなり「なおりますか」と聞かれれ
ば、「なおる方もいるし。なおらない方もいる。それは経過を見ないとなんと
も言えません」ということです。
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整形外科疾患の治療体系
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正確な診断の上に,はじめて正確な治療が行われる
 整形外科疾患の治療の重要な柱は、その疾患にあった総合的な治療計画を
組むことです
1)正確な診断
 病気がわからないのに治療はできません。また、ここをいい加減に行うと、
非常に危険です。たとえば、癌で脊椎が融けているところに、不用意に、力を
加えれば折れます。そうなれば、麻痺が来ることが多いのです。幸い整形外科
疾患は、「医師の診察」と「レントゲン」で、ほぼ診断がつきます。

1−1)精密検査とは?
 必要なら「細かい検査」を行います。ただ検査も副作用の少ないものから、
多いものまで種々あります。いたずらに数多くの検査をするのも感心しません。
要は「必要最小限の」検査で、どれだけ「正確に」病態を捉え切れるかという
のが、問われるわけです。特殊な場合を除いて、初診でいきなり詳しい検査、
たとえばMRIを行う事は、あまりありません。検査は必要最小限であるべき
です。経過中になおらないとか、症状がおかしいとか、医師の判断で、明らか
におかしいと感じたときのみ、行うべきものです。行えば行っただけの情報は
得られますが、行ったことにより、治療法が変わるえるものが「意義ある」検
査です。治療法が変わらないと予想されるときは、精査はしません。経過を見
るためだけに3つも4つも検査をするのはやりすぎです。
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各種治療の性格
 治療には症状を取るのが最優先する対症療法と、根治療法があります。両方
組み合わせて行う事です。対症療法を軽視するのもいけませんし、痛みが取れ
ればよいやと言うのも感心しません。

○薬物治療
 これは非常に重要です。医師は患者さんへの苦痛のない、できるだけ無害な
方法からステップを踏んで治療するわけです。一般的にはまず薬物治療からは
じめることが多いのです。なおらなければ次のステップへ移るわけです。
 痛い間はきちんとお薬を決められたとおりにきちんとのんでください。副作
用が出たらきちんと先生にお伝えください。その場合は当然のむ必要はありま
せん。困るパターンは、痛いのに、整形外科の薬は強いからと「適当に」飲ん
で、次の受診日に病気が直らないと訴える方です。薬物治療が効果がなければ、
より強力な治療に移ることになります。より強力な治療というのは、同時によ
り安全性は落ちるわけです。お薬でなおるのが、一番患者さんにとって楽なの
です。お医者さんが良く言う「様子を見ましょう」とは、この時期に良く使い
ます。対症療法です。

○理学療法
1)物理療法:温熱療法、牽引、鍼灸など
  これは補助療法です。一定の効果はあります。病気の起こり始め(急性期)
には、かえって痛くなることが多いのです。したがって初期には使いづらい方
法です。ある程度痛みが取れてから行うと、それなりの効果があります。対症
療法です。

2)運動療法:各筋肉の筋力増強訓練
 非常に大切です。運動には2種類あります。いわゆる筋肉を伸ばす運動(ス
トレッチング)と、筋力増強訓練です。これは両方行わないと効果はありませ
ん。たとえば肩凝りの方はよく首を回しますが、それはストレッチングであり、
それだけでは不十分です。頚から背部にかけての筋力増強訓練が必要です。

 従って注意しなくてはいけないことは、薬物療法や物理療法はいわば対症療
法であって、本当になおすためには、整形外科疾患の場合は、生活習慣をなお
すこと。特に肥満や、運動不足を解消して、犯された関節の周囲の筋群を鍛え
ることが、必須であるということです。これが根治療法になります。またその
犯された「関節の周囲の筋群」を鍛えることが大切です。たとえば膝が悪い方
は、「膝に負担をかけてはいけない」のに、「運動しなさい」というと、「歩
くこと」だと誤解されます。膝の四頭筋を鍛え、極力歩かないことが大切です。
首が痛い方は頚から背部の筋群を、腰痛の方は腹筋を鍛えることが大切です。

3)日常生活の注意:各関節へかかる負担を減らすこと
 また関節への負担も肢位によってもかなり異なりますから、各関節へ負担の
かからない肢位を覚えることも大切です。たとえば腰痛は、お辞儀する作業は
避けるべきです。これだけで腰への負担はかなり違ってきます。

4)各種ブロック
 これは非常に効果はあるが、患者さんにとっては針を刺すので、痛みがある。
感染や、その他の危険性があるので、使用は、他の方法でなおらない人に限る。

5)各種装具類
  これも効果はあるが、不便なので、使用は他の方法でなおらない人に限る。
○手術
 手術はしかたなく行うものです。保存的治療をきちんと行ってそれで直ら
ない方に、はじめて医師が総合的に判断して、やむをえず行いましょうと勧め
るわけです。
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整形外科は各種治療を駆使し体系的治療を行う
 上記で述べた各種治療の体系的な使用によって、患者さんを直すわけです。
疾患によって、その治療順序はほぼ決まっています。
1)まず必要最小限の検査による正確な診断を行い、
2)疾患にあった、治療体系を選択
3)ステップバイステップで次の治療へ移る
 上記の治療方法を次々試しながら、なおらない方は、何度も診察しなおし
ながら、次のより強力な、侵襲の高い、次のステップへ移るのです。どの疾患
でも、最終ステップは、当然手術です。
 整形外科慢性疾患は、肩凝りや腰痛、膝痛にしても、慢性疾患です。原因は、
加齢変化や、運動不足や、肥満が原因であることが多い。従って上記の対症療
法を行いな がら、肥満の解消、各罹患関節の周囲の筋群の筋力増強訓練を行
い、根気よく受診して、医師に相談しながら各ステップを踏んでいくことです。
 1−2回で終わることは稀なのです。原因が特に筋力不足が多いわけですか
ら、筋力は訓練してもそうつくものではありません。半年以上かかる方が多い。
対症療法を受けながら、ご自分で筋力増強訓練を続けることです。もちろん、
年齢や、仕事、忙しさなどで、ステップを飛ばすことも多い。しかし、それ
はあなたと医師の相談の上で行うものです。どうか賢い医者へのかかり方を覚
えてください。理解しないのは、特に慢性疾患をもっている貴方にとっての不
幸です。

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医療制度改革について(その2)
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医療費の内訳
 医療費の内訳 は、レセプトの上位20%で75%の医療費を使っている。また上位
5%で55%の医療費を使っているわけです。これは高額といっても。上位5%とは
月の医療費は5-6万円。このレベルですと、短期間の入院や、外来でも(特に病
院の)ちょっとした検査や手術をすれば時にあります。これが上位5%なのです。
上位1%はほとんどが入院患者のレセプトといえるでしょうが、上位1%レベル
でもまだ「高額医療」とは言えません。

 上位0,1%のレセプトに5%の医療費。「高額医療」と言える月100万円を超え
るレセプトは、総レセプト枚数の0.1%でした。この月100万円を超すグループの
使用している医療費は全体の約5.5%となります。このグループは急性期医療、
高度先進医療、延命医療などで、高齢化や医療の進歩に伴い、今後ふくらんで
くる部分ではあります。低医療費政策の中で、日本の医療費は低額に押さえら
れている。極貧医療である。急性期医療や高度医療に、今以上に医療費をつぎ
込むことは、意味のあることと考えます。またGDPにしめる医療費の割合は先進
国中19位と最低にちかい。

平成11年度国民医療費は30兆9337億円であり、前年度の29兆8251億
円に比べ1兆1086億円、3.7%の増加である。国民一人当たりの医療費は24万42
00円であり、前年度の23万5800円に比べ3.6%の増加である。国民医療費の国民
所得に対する割合は8.08%(前年度7.81%)である。

「医療費高騰」の欺瞞(ぎまん)
 元の平成11年度国民医療費の厚労省のグラフの左が縦軸を整数にしたグラフ、
図の右が縦軸を対数にしたグラフです。国民所得(国民総生産額)と比較して
国民医療費は著しく低く、決して高騰などしていません。対数目盛は増加率を
示しているに過ぎません。1兆円の1割増加と100億円の1割増加は同じであるは
ずがありません。前者は1000億円の増加、後者は10億円の増加です。同じ1割の
増加でも100倍の開きがあります。(medical朝日の2001年6月号87p記事一部
改変)。

医療問題
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●医療の公平性について
 医療を初めとする福祉制度は、社会のセーフテイネットであるわけですから、
信頼感に富んだ、公平で、誰でも安心して使えるものでなければならないわけ
です。まずは供給側である我々医師の倫理観や収入、医療事故の問題が問われ
るようです。
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●医師の不正請求について
 時々医師の不正請求が新聞をにぎわしますし、マスコミの批判も根強いもの
がある。また患者さんが医療機関の窓口での支払いに、疑問をもつ場面も多い
ようにも見受けられます。連合などは、明細書発行運動も展開している。

 医師の不正請求で告発されるのは医師、薬剤師、歯科医師を含めて、年間多
くて20件程度です。医師だけで25万人いるわけですから、その数はきわめ
て少ないといってよいと思っております。大部分の医師においては倫理感はよ
く保たれている。しかし患者さんの信頼感が得られなければ、医療はなりたた
ないと思っております。透明性を確保することが必要になる。そういう意味で
は、明細書などの発行は大切なことかと思います。ただ確かに診療報酬制度が
丸めでは内容が把握できない。診療報酬が包括化されていては、透明性は確保
できないと思いますね。

医師の倫理について
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●医師の収入について
 医師は特に開業医はお金持ちだという、根強い「常識」があります。調査で
は、勤務医は、苛酷な労働環境に置かれ、当直明けでも休みはないし、時間外
労働も膨大である。研修医の過労死も最近話題になっております。その割には
給料は高くはない。また開業医は、当然年収の多い方もいらっしゃいますが、
大部分の開業医は勤務医より若干多い程度で、1千万以下の方が多いというデー
タでした。平均でも中小企業の社長さんより、若干低いというデータがありま
す。つまり開業医がお金持ちというのは幻想に過ぎない。保険診療ですから、
収入の大部分は保険者から支払われる。当然税金の捕捉率も100%です。

医師の収入
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●効率性について
 医療は日進月歩で、特に移植医療や遺伝子治療などの高度先進医療は非常に
高額である。一方医療は前にも述べましたが、セーフテイネットのわけですか
ら、低コストにしないと維持できないと思います。無駄をのぞき、しかも同時
に質の向上をはからないといけないわけです。しかしコストをかけないで医療
の質の向上をはかるという、この相反する要求にこたえるのは至難であると思
います。

医療の無駄って何?

次号に続く
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さい。
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【発行】 「かかりつけ医通信」発行委員会
【編集】 長島公之(委員長)、安藤潔、本田忠、吉岡春紀、吉村研
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